忘年会続きに加え、来週には新年会ラッシュも始まるはずで、肝臓がお疲れの方々も多いことかと思います。二日酔いの重い体、断片的に思いだされる失言の数々、計算以上に軽くなっている財布。後悔先に立たず、の気持ちを抱えながらもそれでも翌日には会社に向かう、日本のサラリーマン。今夜も日本中のあちらこちらの街中で、酒席での失敗談、武勇伝が数多く生まれていることでしょう。

秀逸な例えが冴える酒呑み伝

 そんな彼らに贈る励ましの書が、『人生で大切なことは泥酔に学んだ』(栗下直也)。

 泥酔してヤクザに殴りかかってしまった「世界のミフネ」三船敏郎、飲みかけの一升瓶を抱えたまま中央線水道橋駅のプラットホームから落下した「批評の神様」小林秀雄、二日酔いの酷さにゲーム中にかかわらずグラウンドに戻してしまった「あぶさん」永淵洋三・・・。

 作家や批評家、俳優、政治家、スポーツ選手といったさまざまなジャンルの偉人たちの逸話を通じて酒との上手い付き合い方を探っています。

 と、紹介すると、得てして武勇伝の列挙に終わってしまい、何かとコンプライアンスに厳しい現代ではありえない憧憬で終わってしまうもの。その点、本書は全体を通して肩の力を抜いて楽しめる読み物に仕立て上げており、著者の力量を感じずにはいられません。

 まず驚かされるのは、秀逸な例えを駆使した読みやすい文章。

 例えば太宰治の章でのフレーズ。
「無頼ぶらない太宰など、現代でいえば、裸にならない小島よしおであり、すべらないダンディ坂野である。」

 さらに梶井基次郎を指して
「キリンレモン、レモンサワーの次くらいに梶井基次郎である。レモネードより梶井基次郎である。」

 取りあげている偉人に、作家や評論家が多く含まれているところからも著者の文壇志向が垣間見られます。さらに書評サイトHONZや週刊誌、月刊誌などでレビューも執筆しており、本書の構成の上手さにも納得できます。