家族、恋人、先輩後輩のような、名前の付く関係が、僕はとても苦手だ。窮屈に感じられてしまう。
名前が付く時点で、その関係性には、何らかの枠組みができている。「家族だったら普通こうだよね」「恋人ってこうするものでしょ」「先輩に対してはこんな風にしてくれないと」みたいな形で示されるのを僕は枠組みと呼んでいる。
枠組みの存在を意識すると、僕は、どうしてもその枠組みに合わせようとしてしまう。こうすることが望まれているのかな、と感じ取った風に行動してしまう。それが僕には、とても窮屈に感じられてしまう。そう振る舞わなければいいのだが、性格的にそれが難しい。名前が付けられない関係であれば、そんな枠組みのことは意識しないで済むから楽なのだ。
子どもの頃からそういう性格だった僕は、大人になると徐々に、関係性の枠組みに巻き込まれないように工夫するようになった。一般的な価値観では理解できないような振る舞いを意識的にすることで、こいつはこの枠組みの中に押し込められない、と諦めてもらえることを期待したのだ。あとは、自分から名前の付く関係性に飛び込まないように意識すればいい。そのやり方は、割とうまくいっていると思う。
今回は、名前の付かない奇妙な関係性を描いた3冊を紹介する。
デボラ・インストール『ロボット・イン・ザ・ガーデン』
この物語は、基本的には、タングというロボットとの旅を描いた物語だ。物語のほとんどを、それが占めている。しかし僕は、ある夫婦がお互いに対して持っていた枠組みを棄て去る物語として本書を読んだ。
イギリス南部の村に住むベン・チェンバーズは、妻・エイミーと二人暮らし。エイミーは有能な法廷弁護士であり、さまざまな案件を抱えて日々飛び回っている。一方でベンは、亡き両親の遺産を受け継いだために働く必要を感じていない。だから、無職である。基本的にボーッとしていて、家事もさほど手伝わない。フルタイムで働いている妻が、合間合間で家事もこなしている状態だ。
そんなある日、庭先でベンは、変わったものを見つける。
旧式のロボットだ。高さは130センチ弱。幅はその半分ぐらいで、金属製の四角い胴体と頭で構成されていた。学校の工作作品みたいなロボットだった。