ヨシタケシンスケ氏。イラストを担当した書籍『カガクノミカタ』を手に。

 いまや押しも押される人気絵本作家となったヨシタケシンスケ氏。子どもも楽しめると同時に、大人も楽しめる絵本の描き手として注目を集める。そうした絵本を生み出す秘訣はどこにあるのだろうか?

 ヨシタケ氏は、Eテレの番組「カガクノミカタ」では番組中のアニメーションを担当し、「あたりまえたろう」と「あたりまえつこ」という人物に「当たり前って何だろう?」と、自明であることを疑ってみるきっかけ(ヒント)を提案している。

 この番組をもとにした書籍『カガクノミカタ』(NHK出版)が刊行されたのを機に、ヨシタケ氏に創作に対する姿勢や科学的なるものへの思いを聞いてみた。

分かることってそんなにない

――ヨシタケさんは「カガクノミカタ」という番組で、「あたりまえたろう」というキャラクターを登場させ、当たり前であることってそもそも何なのか、という問いを投げかけています。

ヨシタケシンスケ氏(以下敬称略) 番組プロデューサーの方から「カガクノミカタ」のコンセプトをお聞きして、当たり前を疑うという部分がまず科学の大元だという点に大いに共感しました。科学的真実とされることも時代に応じて案外コロコロと変わっていく、そこにも面白さを感じて参加させてもらいました。

――ヨシタケさんにとって、科学とはどういうものなのでしょうか?

ヨシタケ これは科学の一側面でしかないかもしれませんが、科学の立ち位置って純粋に突き詰めていくと、分かっていないことがいかに多いかに行き着くように思います。何が分かっているかといえば、分かっていることがちょっとしかない。しかも、いま分かっていることも本当かどうかさえ分からない、ということなら分かるわけですよね。

 だからソクラテスではないですけれど、「自分が物を知らないということなら知っている」ことが科学の大前提でもあるわけで、分かることって実はそんなにない。なぜ人は寝なきゃいけないのかも、実は分かっていない・・・。

 だからこそ知りたい、探りたい、という欲求にもつながるのですが、科学的なものの見方とか、証拠があればそれは真実だとか、ある再現性があればそれは真実だという考え方自体が、科学という枠内だけの話であって、それすらもひとつのストーリーでしかないように思っています。