SNSで溜飲を下げる彼らは、批判の理由をこう嘯く。
「欧米の高級ブランドは中国のことを全然わかっちゃいない。香港や台湾がどこにあるかも知らないのさ」
「中国市場で儲けているくせに」
その一方、彼ら自身が親世代から「若い者には骨がない」と揶揄されていることも知っている。いくら外国ブランドを批判して謝罪に追い込んでも、熱が冷めれば、また大好きなナイキの靴を買い求め、NBAの試合に熱狂しているからだ。
「南シナ海は中国のもの」本気でそう考えている中国の知識層
南シナ海の領有権問題についても、似たような構図がある。
中国は、「南海(南シナ海)の南沙諸島は、2000年来ずっと中国固有の領土である」と主張し、その根拠として、1935年、中華民国政府が西沙諸島、東沙諸島、南沙諸島をまとめて「南海群島」と呼び、翌年、地理学者の白眉初が、地図に海上境界線である「点線」を引いたことを挙げている。その点線の数から「十一段線」と呼ばれるが、1949年に成立した中華人民共和国は、中華民国の主張をそのまま受け継ぎ、1953年に友好関係があった北ベトナム付近の2線を削除して「九段線」とした。今日では、その線の形から「U字線」または「牛舌線」と呼ばれている。
しかし1974年、西沙諸島をめぐり中国とベトナムが軍事衝突し、勝利した中国は西沙諸島を占有。1988年に南沙諸島をめぐり再度衝突し、中国は南沙諸島も手に入れたと主張し、納得できないベトナムとの間で、今も紛争は続いている。
フィリピンとは、2011年、フィリピンの領海内で中国が探査を行い、無断でブイや杭を設置したため紛争が起こり、フィリピンが「国際法に違反する」として国連に提訴した結果、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の「非」を認めて、紛争の仲裁手続き(審理)を進めることを決定した。だが、中国がこれを拒否したことは、まだ記憶に新しい。
アメリカも2016年、「公海での自由作戦」を断行して、軍艦や爆撃機を南沙諸島や西沙諸島に接近させて牽制したが、中国は強固に反発し、大規模な軍事拠点を着々と構築しつつある。
こうした中国の強硬姿勢について、中国人はどう思っているのだろうか。
アメリカの大学で教鞭をとる中国人教授のWang Zeng氏は、サイト『The Diplomat(外交)』に「私たちの心に深く刻みこまれた九段線」(2014年8月25日付)と題するコラムを掲載した。
その中で、「昨年、私が訪問教授として中国のトップクラスの大学で教えた際、学生たちに『九段線は正しいと思うか』と質問したところ、ほとんどの学生が手を挙げた」と記している。
中国では1940年代以降、中学校の地理の授業で『南海は中国領である』と教えてきたが、Wang氏自身も、物差しを使って南沙諸島と中国大陸の距離を測った記憶があるという。
私はこの話が気になって、日本の有名大学に在籍する中国人教授A氏に確認してみた。
「あなたは、南シナ海は中国のものだと思いますか?」
すると、A教授は声を潜めて、「ええ、そう思います」と、申し訳なさそうに答えた。「日本では大っぴらに言えませんが、本音ではそう思っているのです」と、付け加えた。
複数の中国人留学生たちにも質問してみたが、同じ答えが返ってきた。
「中国の学校でそう教えられましたし、テレビや新聞などでも、中国のものだとずっと見聞きしてきましたから」
日本に留学してから、「別の考え方」もあるのだと知ったが、幼い時から教えこまれたことは容易に変えられないのだと、誠実な口ぶりで言う留学生がいた。