2つのサーベイとAIによる分析から、個々の現状が浮かび上がる
── HRテクノロジー大賞の受賞、おめでとうございます。まずは「個を活かすPeople Analytics」という取り組みについてお聞かせください。
髙本真樹氏(以下、髙本) 手法としては「サーベイの結果とHR部門が保有するさまざまなデータをAIで掛け合わせて分析する」ということになるのですが、その結果はサーベイに回答してくれた個々人の成長に役立てられるべき、という想いが根底にあります。
モラルサーベイやモチベーションサーベイなどを実施し、社員の士気や満足度を確認されている企業は多いと思います。ですが、モラルやエンゲージメントのスコアが上がったにもかかわらず、例えば退職率は一向に改善されないという悩みを抱えている企業が実は多いのが現実です。これは、従来のサーベイは経営層や会社文化や体質に関する従業員サイドからのレーティングに留まっているので、組織や社員一人ひとりが抱えている問題の根幹になかなかリーチできていない、つまり“個”にフォーカスした取り組みにつながっていないからではないでしょうか。
大和田順子氏(以下、大和田) 生産性を測るためのインジケーターとして一般的に「売上高÷従業員数」は一つの指標にはなりますが、出てくる数字が正確に組織の生産性を表しているとは限りませんし、ましてや個々人の働きぶりまで落とし込んで評価することは難しいと思います。
髙本 例えば利益率が10%以上で年間10億円の利益を上げている10人のチームは、単純に考えれば「1人あたり1億円を稼ぎ出す優秀なチーム」といえるでしょう。ですが、実態は1人のスーパーエースが9億円を稼ぎ、残りの9人は束になってようやく1億円を捻り出している、ということもあり得ます。その9人が皆、スーパーエースを目指して高い意識で、意欲的に仕事に臨んでくれているのなら何ら問題はありません。しかしながら、もし、いつも周囲からスーパーエースと比較されて窮屈さを味わっているとか、逆にスーパーエース自身が「チームとして評価されるから、成果の割には、自分は査定で割を食っている」などと不満を抱えているようだと、“そのチームは崩壊の潜在リスクがある”とも考えられます。こうしたことは、従来型の全社サーベイや財務諸表・管理会計だけでは分からないことだと思います。
大和田 例えば、優秀なアシスタントがいるチームは、売り上げもいいと経験上分かっていても、そのアシスタントがどれだけ売り上げに貢献したかを計算するのはかなり困難です。管理会計で工夫して算出することも不可能ではありませんが、どうしても数字の遊びになってしまいがちです。