HRプロ

 第3回HRテクノロジー大賞において大賞を受賞したのは、日立製作所。取り組み内容は「社員の生産性意識と配置配属フィット感を調べ、そこに人事・行動データを掛け合わせて、AIによって分析する」「分析結果をもとに効果的な人事施策を実践する」というものだ。その取り組みは『個を活かすPeople Analytics』として、社員ひとりひとりを輝かせるために開発された技術だという。この取り組みを通じて日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部が目指すところを、人事総務本部担当部長の髙本真樹氏およびピープルアナリティクスラボのエバンジェリスト、大和田順子氏にうかがった。

第3回HRテクノロジー大賞『大賞』

株式会社 日立製作所

「個を活かすPeople Analytics」個人の内面×人事・行動データ×最先端のAI・データ分析で個人個人を輝かす!

 個人の「生産性」および「配置配属フィット感」の意識を測る心理尺度構成と、その尺度構成を用いたサーベイを大学の学術指導(*)を受け独自に開発。AIを用いて、サーベイで得た個人の意識とさまざまな人事・行動データを分析することで、一人ひとりの行動変革を促す課題や強みなどを抽出し、効果的かつ効率的な、より精度の高い人事施策の実行へとつなぐ取り組みが、高く評価されました。(*)筑波大学による学術指導

ゲスト

髙本真樹 氏

株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部
人事総務本部担当本部長[金融BU,社会BU,直轄部門担当]
兼 ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ長
兼 コンプライアンス本部長


 1986年に株式会社日立製作所に入社し、大森ソフトウェア工場(当時)の総務部勤労課をはじめ、本社社長室秘書課、日立工場勤労部、電力・電機グループ勤労企画部、北海道支社業務企画部を経験。都市開発システム社いきいきまちづくり推進室長、株式会社 日立博愛ヒューマンサポート社社長、情報・通信システム社人事総務本部プラットフォーム部門担当本部長を経て、現在システム&サービスビジネス統括本部 人事総務本部 担当本部長。全国の起業家やNPOの代表が出場する「社会イノベーター公志園」(運営事務局:特定非営利活動法人 アイ・エス・エル)では、メンターとして出場者に寄り添い共に駆け抜ける "伴走者"も務めている。
大和田順子 氏

株式会社日立製作所 システム&サービスビジネス統括本部
人事総務本部
ヒューマンキャピタルマネジメント事業推進センタ
ピープルアナリティクスラボ エバンジェリスト

 ロンドン大学MBA、筑波大学カウンセリング修士、ロジスティクス経営士。日本電信電話株式会社を経て、2001年リクルートグループへ。株式会社リクルートマネジメントソリューションズ 執行役員、株式会社リクルートキャリア 執行役員、フェローを歴任する。2017年に株式会社日立製作所に入社。ピープルアナリティクスラボのエバンジェリストとして、ビッグデータアナリティクス技術と人事領域のナレッジを組み合わせ、イキイキと働ける社会の実現に向けて取り組んでいる。

2つのサーベイとAIによる分析から、個々の現状が浮かび上がる 

── HRテクノロジー大賞の受賞、おめでとうございます。まずは「個を活かすPeople Analytics」という取り組みについてお聞かせください。

髙本真樹氏

髙本真樹氏(以下、髙本) 手法としては「サーベイの結果とHR部門が保有するさまざまなデータをAIで掛け合わせて分析する」ということになるのですが、その結果はサーベイに回答してくれた個々人の成長に役立てられるべき、という想いが根底にあります。

 モラルサーベイやモチベーションサーベイなどを実施し、社員の士気や満足度を確認されている企業は多いと思います。ですが、モラルやエンゲージメントのスコアが上がったにもかかわらず、例えば退職率は一向に改善されないという悩みを抱えている企業が実は多いのが現実です。これは、従来のサーベイは経営層や会社文化や体質に関する従業員サイドからのレーティングに留まっているので、組織や社員一人ひとりが抱えている問題の根幹になかなかリーチできていない、つまり“個”にフォーカスした取り組みにつながっていないからではないでしょうか。

大和田順子氏(以下、大和田) 生産性を測るためのインジケーターとして一般的に「売上高÷従業員数」は一つの指標にはなりますが、出てくる数字が正確に組織の生産性を表しているとは限りませんし、ましてや個々人の働きぶりまで落とし込んで評価することは難しいと思います。

髙本 例えば利益率が10%以上で年間10億円の利益を上げている10人のチームは、単純に考えれば「1人あたり1億円を稼ぎ出す優秀なチーム」といえるでしょう。ですが、実態は1人のスーパーエースが9億円を稼ぎ、残りの9人は束になってようやく1億円を捻り出している、ということもあり得ます。その9人が皆、スーパーエースを目指して高い意識で、意欲的に仕事に臨んでくれているのなら何ら問題はありません。しかしながら、もし、いつも周囲からスーパーエースと比較されて窮屈さを味わっているとか、逆にスーパーエース自身が「チームとして評価されるから、成果の割には、自分は査定で割を食っている」などと不満を抱えているようだと、“そのチームは崩壊の潜在リスクがある”とも考えられます。こうしたことは、従来型の全社サーベイや財務諸表・管理会計だけでは分からないことだと思います。

大和田 例えば、優秀なアシスタントがいるチームは、売り上げもいいと経験上分かっていても、そのアシスタントがどれだけ売り上げに貢献したかを計算するのはかなり困難です。管理会計で工夫して算出することも不可能ではありませんが、どうしても数字の遊びになってしまいがちです。