また、近年は地球温暖化問題からも、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会によって2009年に取りまとめられた「原子力発電推進強化策」では、温室効果ガス排出削減の中期目標の達成には、2020年時点で原子力発電の発電比率を40%にする必要が指摘されていました。
まさに原子力は日本にとって、エネルギー安全保障上かつ環境政策上、切り札であったわけです。
ポスト原子力のエネルギー政策
しかし、今回の福島第一原子力発電所放射能漏洩事故によって、この切り札が使えない札であることが判明しました。日本の原子力を核にしたエネルギー政策は、言葉は悪いですが、日本国民の命と安全を担保にして成り立っていたのです。
たとえ現在30%の電力を供給している主力エネルギー源の1つであるとしても、国民の命と安全を引き換えにはできません。
今回の大災害を教訓として原子力の安全基準を見直し強化するといっても、地震大国日本では東日本大震災を超える災害が今後起こらないとは限りませんし、そもそも自然を相手に人間が災害レベルを“想定”すること自体に限界があるのではないでしょうか。
原子力に代わってエネルギー安全保障と環境対策を同時に実現するエネルギーは、クリーンエネルギーしかありません。しかしながら、一夜にして太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギーがエネルギー供給の主役として原子力に取って代わることはありません。
主にコスト高が原因ですが(詳細は拙稿「クリーンエネルギーで21世紀の覇権を取れ!」をご参照ください)、本格的な普及には政府の補助金が必要です。
ただし、新しいエネルギーを普及させるために政府の補助金や援助が必要なのはクリーンエネルギーだけに限りません。原子力も同様です。歴史的に日本の原子力には国家的プロジェクトとして莫大な国家予算が振り分けられており、1991年以降の過去20年間を見ただけでも、毎年4000億円以上の予算が注ぎ込まれています。
すでに日本の電力供給の30%を賄う主力エネルギーとなってからも、2011年度には4330億円の原子力予算が請求されています。
経済産業省が住宅用太陽光発電システム導入の補助金などを含む再生可能エネルギー導入拡大に要求した予算総額が2639億円ですから、核燃料サイクル促進など新分野があるとはいえ、既に普及したエネルギーである原子力に与えられる予算規模は突出しています。
今回の大災害を踏まえて、原子力政策の見直しとともに原子力予算の見直しも必要になってくるでしょう。既存の原子力発電所の最大限の安全対策強化や老朽化対策など、今まで以上に必要になる予算はあるものの、新規原子力発電所建設や核燃料サイクルの商業化が極めて非現実的になる中で、2011年度の原子力予算の中で「電源立地対策費」だけでも1826億円もの予算が計上されています。
クリーンエネルギーの普及を急げ
今後原子力予算が見直される中で、原子力の唯一の代替となるクリーンエネルギーを政府は国家プロジェクトと位置付け、国家予算を戦略的に振り分け、その普及スピートを高める必要があります。
原子力発電所の老朽化は待ってはくれません。日本の国民が安全で安心な電気の供給を受けることができる電力供給システムの一刻も早い構築が待たれます。
また、日本国内でクリーンエネルギー普及を加速させられれば、次世代産業と目されるクリーンエネルギー産業での国際競争に日本は勝ち抜けるのではないでしょうか。
戦後の焼け野原から立ち上がった日本の製造業が世界を凌駕し奇跡的な経済復興を成し遂げたように、今回日本が経験した未曾有の大災害を機に、官民挙げてクリーンエネルギーの拡大に励み、人と環境に安全なエネルギー供給システムを確立すると同時に、世界のクリーンエネルギー産業で日本がリーダーとしての地位を確保し、21世紀も繁栄国家であり続けることを願ってやみません。