中東の政情不安が原油価格を押し上げ、消費国の経済や人々の生活に影響を与えることは、1970年代に起きた2度の石油ショックおよび2005年以降リーマン・ショックまでの原油価格高騰で経験済みです。

エネルギー供給の考え方を変える必要がある

 重油を燃料とした発電量自体は主にピーク電源として全体の10%を割っていますが、日本の総発電量の約30%を占める液化天然ガス(LNG)の価格は原油価格にリンクしており、原油価格の上昇はLNG価格の上昇、すなわち電力価格の上昇を招きます。

 加えて、今回の福島第一原子力発電所事故によって、日本のみならずドイツや中国といった世界の国々が老朽化した原子力発電所の運転停止や新規原子力発電所計画の審査中止などを発表し、原子力の代替発電燃料である天然ガスや石炭需要の高まりから、それらの価格を押し上げています。

 中東動乱と原発事故によって、今後日本の電力価格が上昇することは、まず間違いありません。

 また、今回の大震災によって原子力発電所をはじめ火力発電所も被災し、東京電力や東北電力の一部圏内では計画停電が実施されており、企業活動のみならず人々の日々の生活まで大きな影響を受けています。電源復旧や電源の新設には時間がかかるため、この電力不足は長期化するとの見方が一般的です。

 今まで電力業界は、政府が推し進めていた電力小売りの全面自由化に対し、電力会社には電力安定供給や環境保全など公益的に果たす役割があるとして積極的に推進してきませんでした。しかしながら、今回はこの公益的課題を電力会社自身が果たすことができませんでした。

 社会情勢や災害によって電力価格が上昇し、電力供給そのものがストップしてしまう脆弱なエネルギー供給システムの上に、日本の国民生活や経済活動は成り立っているのです。

 この脆弱な日本のエネルギー供給システムをさらに弱体化させるのが、今回の原子力発電所事故です。

日本にとっての原子力

 福島第一原子力発電所事故発生前は、日本では54基の原子炉が稼働しており、その発電容量は4800万キロワット(kW)を超え、電力供給の約30%を担っていました。

 燃料のウランが主にカナダ、オーストラリアなど政情安定国から輸入されていることに加え、使用済燃料から再処理・回収されたウラン・プルトニウムを再び燃料として再利用する「プルサーマル計画」や高速増殖炉の商業化など原子力サイクルの確立によって、原子力の「準国産エネルギー化」を目指していました。