「自由な経済」にも暗雲がたちこめた。香港には100年の歴史を誇る証券取引所があり、洗練された投資家たちがいて、国際金融センターとして信用力があった。だが、香港で上場する中国株が急速に増大し、今や時価総額6.5兆ドル(約700兆円)に達し、日本を追い抜いて米国に次ぐ世界第2位の取引高になったが、中国株に頼らざるを得ない香港の金融センターは、もはや独立性を維持するのが極めて難しい。

 2019年2月、中国国務院は「粤港澳大湾区」計画を正式に発布し、本格始動に入った。「粤港澳大湾区」とは、「広東(粤)、香港(港)、マカオ(澳門)」を結んだ「グレーターベイエリア」を指し、高速鉄道や世界最大の全長52kmの橋も建設中だ。計画自体は2017年に構想されたものだが、本格始動に際して構想は大きく膨らみ、「世界の三大ベイエリア」であるニューヨーク、サンフランシスコ、東京を凌ぐ、「世界一」の巨大ベイエリアを創出する計画である。計画の目玉は、現在8.8%の経済成長率を誇る深圳市のさらなる発展計画だ。2025年までに国際イノベーション都市に変貌させ、2035年に世界の最先端都市と「同等」レベル、今世紀半ばまでには深圳市を「世界一」の最先端都市に押し上げようという「世紀の大計画」である。もし、それが実現すれば、香港は相対的に存在価値が薄れ、深圳市の人材供給基地となり、世界に冠たる中国のグレーターベイエリアに埋没させられてしまうかも知れない。

「革命家養成」に長けた政治国家・中国

 香港の最後の砦――「司法の独立」も、今や風前の灯だ。2014年に起きた「雨傘革命」は、それを必死に食い止めようとする若者たちの闘いだった。今夏の「犯罪人引渡条例」に端を発した若者や市民たちの抗議運動はすでに3カ月に及んでいるが、巨大国家・中国に挑んだ闘いは、だれの目にも分が悪いのは明らかだ。だが、歴史的に蹂躙されつづけてきた香港人には、ここだけはどうしても譲れない最後の一線なのだ。

8月30日の朝に逮捕され、夜になって保釈された民主活動家の2人。”民主の女神”周庭氏(左)と黄之鋒氏(写真:ロイター/アフロ)

 香港返還時に50年間は維持すると中国が公言した「一国二制度」は、もう22年過ぎた。迫り来るタイムリミットの2047年まで、あと28年しかない。28年後には黙っていても香港の「高度な自治」は中国に取り上げられてしまう、いやもしかしたら数年後にはなし崩し的に中国に飲み込まれてしまうかもしれない。今立ち上がり、声を大にして叫ばなければ、もう後がないのだ。香港大学、香港科学技術大学、香港中文大学など、東アジアの超一流校の大学生は、その焦燥感に突き動かされ、高校生とともに立ち上がり、全身全霊で中国に「否」を突きつけている。「私たちが闘わなければ、だれも助けてくれないのです」と、涙声で訴える女子高校生の表情には、覚悟を決めた闘士の風格すら漂う。

 政治国家・中国は今も昔も、若者たちに過酷な試練を与え続けて、結果的に筋金入りの革命家へ育て上げてきた。「闘士」の養成になんと長けた国なのだろうか。