実は現在、フランスでもある男性の「ソフトな安楽死」(鎮静)を巡って、大きな論争が起こっている。

 2008年、オートバイの事故で脳に重度の損傷を受け、10年以上ほぼ植物状態にあるフランス人男性、バンサン・ランベール氏(42歳)についてだ。

参照:安楽死反対のフランスで始まる「ソフトな安楽死」https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/56445

 ランベール氏の妻は、「事故以前に『もし自分の身に何か起きた場合は延命治療を中止し、尊厳死を望む』という彼の意思を聞いていた」と訴えた。しかし、裁判所は、法的に有効な事前指示書が存在しないとして、その意思を認めなかった。担当医は2014年1月、2005年に成立していた尊厳死を認める法律と、妻と兄弟8人のうち6人の同意に基づき、栄養の静脈投与を停止することを決定した。

 ところが敬虔なカトリック教徒の両親と兄弟2人は、これに納得しなかった。回復の可能性もあるとして、生命維持の継続を求め訴訟を起こしたのだ。

 こうして植物状態になってしまったランベール氏の親族間で、意見が全く対立してしまったのだ。

親族間の意見対立で患者の扱いが二転三転

 一審では生命維持停止を認めない判断が下されたが、フランスの最高行政裁判所である国務院は2014年6月、「回復の見込みが全くない患者の治療を中止することは合法」との判断を言い渡した。

 これを受けてランベール氏の両親は、今度は欧州人権裁判所に訴えを起こす。2015年6月、欧州人権裁判所の判断は、フランスの裁判所が下した判決を支持する、というものだった。

植物状態の男性、裁判所が延命治療の再開命じる フランス

仏パリでバンサン・ランベールさんの延命治療の継続を求め、安楽死に反対するデモを行う人々(2019年5月20日撮影)。(c)KENZO TRIBOUILLARD / AFP〔AFPBB News

 その後もランベール氏の両親は延命措置の継続を求め続けた。今年1月、医師が延命措置の中止を決断、裁判所や国務院もその決定を支持したため、担当医はランベール氏の家族に「5月20日の週に生命維持装置を外す」と告げていた。

 5月20日、医師は生命維持装置の停止に踏み切るが、その日のうちに、パリの控訴院(日本の高等裁判所にあたる)からランベール氏に対して治療の再開のため「あらゆる措置をとるよう」に命じられる。

 このように、事態は二転三転してきたのだが、このたび、ついに「最終的決定」が下った。AFPなどの報道をまとめると以下のようだ。

 日本の最高裁に当たるフランスの破棄院は、6月28日、ランベール氏に対する水分補給と供給の再開を命じたパリ控訴院の5月20日の決定を覆し、生命維持装置の停止を認める判決を下した。もっとも、控訴院が判断を下す権利がないとされただけで、生命維持を停止することそのことに判決が下されたわけではない。だから論争はまだ続くことが予想されるが、ランベール氏の両親に対する有用な救済策はもはや存在しなくなり、医療チームがいつ決断を下すかどうかだけの状況となった。