(藤 和彦:経済産業研究所 上席研究員)
米WTI原油先物価格は直近の2週間で10ドル超下落し、5カ月ぶりの安値水準で推移している(1バレル=51ドル台)。
その要因は、貿易摩擦の激化による原油需要の先行き不安である。米トランプ政権は中国との貿易摩擦に加え、メキシコに対しても不法移民対策への不満から同国からの輸入品に5%の関税を6月10日から課すことを決定した。関税の対象にメキシコ産原油が含まれる場合、米国の石油精製業者が打撃を受ける恐れがある。メキシコは米国の輸入の約10%を占めており、原油調達のコストが上昇すれば、利ざやが半減することになりかねない(5月31日付ブルームバーグ)。
年初から原油価格の上昇を牽引してきた投機資金も流出が続く。WTI原油先物市場におけるヘッジファンドによる買い越し幅は、直近の1カ月で4割も減少した。
市場の需給均衡に貢献する協調減産
原油市場は弱気相場入りし、50ドル割れの懸念が囁かれる中で、下支えの材料はOPECと非OPEC産油国による協調減産である(日量120万バレル)。
ロイターの調査によれば、5月のOPEC加盟国14カ国の原油生産量は前月比6万バレル減の日量3017万バレルと2015年以来の低水準だった。イランの生産量が前月比40万バレル減、ベネズエラが5万バレル減となった一方、サウジアラビアは20万バレル増の1005万バレルとなり、イラクやアンゴラも増産した。減産対象11カ国の原油生産量は29万バレル増となり、遵守率は4月の132%から96%となったものの、原油市場の需給均衡に貢献している。
ロシアの5月の原油生産量は前月比12万バレル減の日量1111万バレルとなり、合意目標を下回っている(ロシア・エネルギー省)。4月下旬に起きた欧州向け原油パイプラインの汚染問題が尾を引き、原油生産量は3年ぶりの低水準となっている。
サウジアラビアは今年後半も協調減産を続ける意向を重ねて表明しているが、ロシアは延長するかどうかについて慎重に検討するとの姿勢を崩していない。
「弱り目に祟り目」の米国シェール企業
米国の5月末の原油生産量は日量1240万バレルと過去最高を更新したが、石油掘削装置(リグ)稼働数は月間ベースで6カ月連続の減少となった。
シェール企業の多くが、投資家の要請により利益の伸びを拡大する方針に転じたことに加え、改善傾向にあったキャッシュフローが今年に入って再び悪化し(5月29日付OILPRICE)、新たな掘削への支出を減らしていることがその背景にある。