サウジ石油タンカー2隻、UAE沖で「破壊行為」受け損傷

アラブ首長国連邦を構成するフジャイラ首長国の沖合で「破壊行為」を受けて損傷したとされる石油タンカー2隻のうち1隻(2019年5月13日撮影)。(c)KARIM SAHIB / AFP〔AFPBB News

(藤 和彦:経済産業研究所 上席研究員)

 米WTI原油先物価格は中東地域の緊張の高まりなどが材料視されて堅調に推移している(1バレル=60ドル台前半)。

 中東での最初の事案は5月12日に発生した。アラブ首長国連邦(UAE)のフジャイラ沖合い6~10カイリの海域で、サウジアラビアのタンカーなど2隻、UAEの船舶1隻、ノルウェーの船舶1隻が何者かの「妨害」によって損傷を受けた。

 同国の船舶が被害を被ったノルウェーの保険会社は「攻撃は近辺を航行していた船舶が放った複数の水中ドローン(30~50キログラムの純度の高い爆発物を搭載)を用いて実施された。イラン革命防衛隊が関与した疑いが極めて強い」との見方を発表した(5月17日付ロイター)。これに対しイラン側は一貫して関与を否定している。

 次の事案は5月14日に発生した。サウジアラビア東部の油田と西部の港をつなぐ原油パイプライン施設2カ所が、爆発物を積んだドローンにより攻撃され、死傷者はなかったものの、パイプラインは閉鎖に追い込まれた。イエメン内戦でサウジアラビアと対立するシーア派反政府武装組織フーシ派が自らの関与を認める声明を発表すると、翌15日、サウジアラビアをはじめとするアラブ連合軍はイエメンの首都サヌアなどでフーシ派の拠点に対する大規模な空爆を実施した。

サウジ連合軍がイエメンで空爆、送油管攻撃命じたのはイランと名指し

サウジ連合軍がイエメン首都サヌアを空爆。空爆後に上がる煙(2019年5月16日撮影)。(c)Mohammed HUWAIS / AFP〔AFPBB News

 その後もイラクのバグダットで政府機関や米大使館が集中する地域「グリーンゾーン」にロケット弾が撃ち込まれたり(19日)、サウジアラビアのイスラム教の聖地メッカに向けて弾道ミサイルが発射される(20日)などの事案が相次いでいる。

原油生産や輸出への影響は微々たるもの

 こうした中東情勢の悪化が「原油供給の減少につながる」との見方が強まっているが、WTI原油市場では、今年(2019年)4月下旬に記録した最高値(1バレル=66ドル)を超える勢いが生まれていないのが実情である。

 その理由は、中東地域で物騒な事案が相次いでいるが、実際の原油生産や輸出への影響がほとんどないからである。