(福島 香織:ジャーナリスト)
天安門事件30周年を前に世界各地でシンポジウムや討論会が行われ、1989年6月4日に起きた悲劇を風化させまいという努力がなされている。特に香港では、毎年、6月4日の夜にはキャンドル集会が恒例になっている。だが、ひょっとするとこうした香港の天安門事件追悼集会は今年が最後になるかもしれない。
というのも「逃犯条例」(中国への犯罪人引渡し条例)改正案が今年(2019年)夏にも可決しそうなのだ。そうなれば、中国から香港に逃げてきた民主活動家や法輪功学習者、人権活動家、そして汚職官僚なども犯罪人として中国公安当局に引き渡されることになる、かもしれない。そして、天安門事件を忘れまいとするデモや集会なども違法な集会、反党活動、国家分裂活動として取り締まられ、主催者が犯罪人として中国に引き渡される可能性もありうるわけだ。
逃犯条例については、日本メディアでもかなり報じられている。4月28日には香港市民による13万人規模の条例に反対するデモが起きた。そして来たる6月9日には条例改正の絶対阻止を掲げて大規模デモが呼びかけられている。その前に行われる6月4日の天安門事件集会でも条例阻止が1つのテーマとなるだろう。
決定的に崩れる香港の司法の独立性
この改正逃犯条例とはどんなものなのか。現行の「逃犯条例」は「香港以外の中国その他の地方にはこの条例を適用しない」ことが規定されており、香港が中国本土と異なる司法の独立を有することを裏付ける内容になっている。改正条例案はこの適用外条項を削除する。
一言で言えば、香港の司法の独立性はこれで決定的に崩れることになる。条例の運用次第では、中国共産党が国内でやっているような政治犯・思想犯逮捕を香港でも行えるようになる可能性があるというわけだ。