(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)
米商務省が5月15日、米国製品の輸出を禁止するエンティティーリスト(EL)にファーウェイを追加すると発表した。米国は、ファーウェイに対して最大限の圧力をかけ、叩き潰しにきたと考えられる。そのため、ここ半月ほど、新聞やテレビなどのマスメディアのニュースは、“ファーウェイ祭り”のような様相を呈している。
しかし、筆者が本稿で伝えたいことは、米国の禁輸措置の詳細やそれに伴う甚大な影響ではない(話の流れの関係で多少その内容にも言及するが)。では、どのようなメッセージを伝えたいかというと、『全ての企業は、昨年(2018年)8月13日に米国が成立させた法律「国防権限法2019」への対策を講じていただきたい』というということである。
米国では毎年、上院と下院で国防予算を承認する際に、様々な条件が負荷され、それが法律になる。昨年は、79兆円の国防予算を認可する際、「国防権限法2019」が成立した。この法律の889条には、米政府機関がファーウェイなど中国企業5社の製品やサービスを使ってはならないことが明記されている。
連日これだけファーウェイに関するニュースを新聞5大紙やNHKをはじめとするテレビが報じているのに、ほとんど国防権限法のことに言及していない。これは、マスメデイアの怠慢ではないかと思う。そのためもあって、5月10日と22日の講演会で筆者が国防権限法を説明したが、参加者の多くが、この法律の恐ろしさを認識していなかった。
米国がファーウェイをELに追加したことと、米国が国防権限法を施行することとは、まったく別物の話である。国防権限法は、今年8月13日と来年8月13日の2段階の日程で施行される。特に、来年施行される内容は、多くの日本企業に大きな被害をもたらすと推測される。しかも、この法律は、通信機器や電子機器に限らず、あらゆる産業と企業に影響を及ぼす。
以下では、まず、5月15日以降のファーウェイに関するニュースを振り返る。その上で、米国の国防権限法に関する警告を行う(なお、国防権限法については、2019年3月6日の記事「『ファーウェイ排除』の火の粉を浴びるソフトバンク」でも取り上げた。重複する部分もあることをお断りしておく)。
「EL」は米国のブラックリスト
米国は、ファーウェイをELというブラックリストに追加した。これにより、ファーウェイは、インテル、クアルコム、ザイリンクス、ブロードコムなどの半導体、および、グーグル、マイクロソフト、オラクルなどのソフトウエアが導入できなくなる。また、日本製など米国以外の部品であっても、米製の部品やソフトウエアが25%以上含まれる場合は、ファーウェイとの取引ができなくなる。