企業の貯蓄過剰も解決できる
マイナス金利は現金に課税するのと同じで、マクロ経済にも大きなインパクトをもたらす。100兆円以上の紙幣が電子に置き換わるからだ。日銀の金融政策が行き詰まったのは、名目金利をゼロ以下にできなかったためだが、この方法でその限界を突破できる。
日本経済の最大の問題は、資金を借りて投資するはずの企業が大幅な貯蓄過剰になり、資本主義のメカニズムが機能していないことにある。マイナス金利を下げれば、企業は貯蓄を取り崩して投資するようになるだろう。
たとえば預金金利がマイナス1%になったら、トヨタ自動車の3兆円の預金は1年で2兆9700億円に目減りするので、株式や投資信託などで運用するようになるだろう。取引や賃金の支払いもすべて電子化し、自動車の価格も電子決済は1%割り引けばいい。
紙幣がなくなると日銀の通貨発行益(紙幣の製造原価と流通価値の差)はなくなるが、脱税を防ぐことによる税収の増加はそれより大きい。
最大の問題は政治である。マイナス金利は日銀のオペレーションだけで可能だが、資金の流れがガラス張りになることをいやがる政治家や企業は多いので、「プライバシー保護」を理由にして強い反対があるだろう。
現金がなくなると銀行業は消滅するので、銀行の反対も強いだろう。銀行業界の再編は必至である。マイナス金利が大きすぎると「取り付け」が起こるので、金利は慎重に設定して徐々に拡大する必要がある。
マイナス金利が大きくなると、資金が海外に逃避して円安になる可能性があるが、日銀券は大部分が国内で保有されているので、日本はこの実験を行う最適の国だ、とロゴフは論じている。
現金を全面的に廃止すると電子マネーを使えない低所得者が困るので、最小限度の現金は残してもいいが、通貨が電子化することは歴史の必然である。日本がそのトップに立つことで、新しいイノベーションも生まれてくるだろう。