安倍首相の「ゼロ金利に賭けるギャンブル」
ゼロ金利でしか使えないという意味で、アベノミクスはMMTと似ている。2013年に日銀の黒田総裁は「量的緩和でインフレ期待を起こす」と宣言したが、よくも悪くも何も起こらなかった。2%のインフレ目標は実現できないが、金利上昇も起こらなかった。
アベノミクスはゼロ金利に賭けるギャンブルだが、これは危険な賭けだ。ゼロ金利という異常な状況はそう続かないので財政赤字を減らさないといけない――という財務省の考え方は官僚機構の常識だ。
他方で、財政危機のようなテールリスクは確率としては小さいので、平時にはそれを無視して放漫財政を続け、何か起こったらそのとき考えればいい――という安倍首相の戦略は合理的だ。
日本政府は過剰に信頼されているので、その信頼を少しぐらい毀損しても何も起こらないだろう。金利が上がっても日銀が国債を買って「金融抑圧」できるので、ハイパーインフレのような破局的な危機にはならないだろう。
もう1つの問題は世代間の所得移転だが、ゼロ金利が続くなら政府が民間の代わりに借金したほうがいい。それによって成長率が上がれば税収が上がり、将来世代の負担も減る。これも楽観的に考えれば、しばらくは続けられるかもしれない。
MMTはゼロ金利という前提条件が変わると成り立たないが、正しい点もある。それは経済政策の目的は財政の安定ではなく経済の安定だという主張だ。財政の健全化は経済の健全化の手段なので、均衡財政は政府の目的ではありえない。
安倍首相は今のところギャンブルに勝っているが、それは今が経済的には「平時」だからである。政府の役割は戦争や金融危機などの「有事」に備えることだが、それは誰も予想しない形でやってくる。平時に慣れて平和ボケした安倍政権が、それに対応できるかどうかはわからない。