『稚心を去る』(栗山英樹・著)

「すべて指示していたものを、コーチに任せて一歩引くようにしたら、それまで見えなかったものがいろいろ見え始めた」という内容だった。

 それに感化され、少し選手と距離を取ってみようと試してみるようになった。

 それからだ。

 ただ、「引き」と「俯瞰」だけだと、どうしても客観的になり過ぎてしまうので、「寄り」で接してみようとするときは、できるだけ思い切って選手の中に入ってみるようにしている。

 この選手はどうしてこんなに苦しんでいるんだろうと思ったとき、その選手になり切るくらいのつもりで考えてみないと、わからないこともあるような気がするからだ。

 客観的に見ると、そんなことで苦しんでいないで、さっさとその悩みの種を捨ててしまえばいいのにと思う。たとえば、それはプライドや、自信からくるものだったりする。

 でも、彼にはそれを捨てられない理由が何かある。それを理解してあげられないと、接し方も頭ごなしになりがちだ。それが「引き」や「俯瞰」のデメリットだと思う。

 だからこそ、いつもバランスが必要なのだ。(栗山英樹・著『稚心を去る』より再編集)