水害の多い地形だった

 この地下神殿が話題になり注目されているのは、国内でも最大規模の排水施設だからだ。では、なぜこの地に建設されたのか。

 首都圏外郭放水路があるのは埼玉県東部の春日部(かすかべ)市。江戸川を挟んで千葉県野田市と隣接している。この付近は西の大宮台地と東の常陸台地の間に挟まれ、海抜が比較的低い地域である。周囲には利根川・江戸川・荒川といった大きな河川のほか、中小の河川が多くあり、昔から台風や大雨による水害が多かった。また、河川の勾配がゆるやかであるため、流域に浸水した水がなかなか引かず、被害を大きくしていた。これは次の断面図を見ると直感的にわかるだろう。

春日部市付近で川の流れと大体垂直になるように切った断面図。横方向に比べ縦方向(高さ)を強調している
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 首都圏外郭放水路は、総工費2300億円、1993年に着工し13年の工期をかけて建設された、中川・綾瀬川流域における治水対策の中核となる施設なのである。

 水を取り込むのは、春日部市付近を流れる中川・倉松川・大落古利根川(おおおとしふるとねがわ)など中小5つの河川。江戸川のような大型河川に比べて、中小河川は曲がりくねっているうえに、増水に耐える余地が少ない。つまり大型河川より洪水が起きやすいのだ。

5つの河川と国道16号線との交点付近に並ぶ立坑。第1立坑の右側が江戸川で、同じ場所に調圧水槽と排水機場がある(Googleマップ)
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 このため、川の近くに立坑を作り、その水を集めて江戸川に流している。

調圧水槽の水を江戸川に排水する排水口

 調圧水槽からポンプによって吸い上げられた水は、この排水口から江戸川に排水される。排水口は1つで地下鉄が楽々通れる広さだ。江戸川からの逆流を防ぐ機能もある。