「笛吹けど踊らず」

 公的資金の予防注入をめぐる、金融庁VS地域金融機関の “神経戦” を1フレーズで言い表すなら、これしかないだろう。世界的な金融危機を背景に、政府は昨年3月末失効した金融機能強化法を12月17日付で復活させた。

「100年に1度の危機」、財政演説で中川財務相

金融相先頭に「営業攻勢」〔AFPBB News

 金融庁は復活直後から積極的な活用を呼び掛けたが、2月6日時点で申請検討を正式表明したのは、札幌北洋ホールディングス(札幌市)、南日本銀行(鹿児島市)、福邦銀行(福井市、非上場)の3行だけ。中川昭一財務・金融相は「(強化法は)健全行こそ活用すべき制度。活用しなければかえって健全ではない印象を与える」と、恫喝もどきのセリフを吐いてまで申請を迫っている。しかし、現状のままなら、資金枠12兆円に対して申請額は300億円にも満たない。

 大半の地域金融機関が様子見を決め込む。「年度内注入」のタイムリミットが迫る中、2月に入っても動きは鈍い。まだ時間は残されているが、地銀、第2地銀の大多数は年度内の申請を見送る公算が大きい。

 「申請すれば “危ない銀行” のレッテルを貼られ、風評リスクが懸念される」。公的資金導入に消極的な理由を尋ねれば、地銀の経営陣はこう口を揃えるはずだ。このため、旗振り役の金融庁はマスコミの記事の書きぶりに神経を尖らせている。しかし、「政府が求める中小企業向けの貸し出し増加に自信を持てない」、それが銀行側の本音だろう。そして何より、「金融庁と民間金融機関に信頼関係がない」(政府関係者)のが主因と言えるだろう。

金融庁「営業攻勢」、地銀は行政不信

 「民間銀行が『金融庁検査が厳しいから貸せない』などという対応をしていないかどうかも検査する」。昨年6月、原油・素材価格の高騰で景気悪化の兆しが見え始める中、当時の渡辺喜美金融相は記者会見で金融機関の貸し渋りを一喝した。その後、実際に検査したかどうかは不明だが、公的資金に対する「風評リスクが怖い」、あるいは「検査が厳しく貸せない」は同じ類だ。

 すなわち、「検査が厳しく貸せない」を “翻訳” すれば、「不良債権化の恐れが高いため、融資を実行できない」。取引先に正面切って言えない、銀行マンの言い訳に過ぎないのだ。

 同様に「風評リスクが怖い」は、「公的資金を導入すれば金融庁からあれこれ指図され、怖いし面倒になる」が本音だろう。検査・監督権限を持つ当局に、本音を明かすわけにはいかない。

 その一方で、地銀関係者の多くは、金融機能強化法の復活を高く評価している。メガバンクや大手地銀を想定した預金保険法102条による公的資金注入の枠組みは、「地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずる恐れがあると認める時」を要件とするため、規模の小さな銀行、特に第2地銀への適用が難しい。実際、適用したのは、りそなホールディングスや足利銀行にとどまっている。

 このため、「強化法復活」を訴える声は第2地銀を中心に少なくなかった。ただ、あくまでセーフティーネット(安全網)として復活を望んだのであり、地銀界からは「金融庁がここまで熱心にセールスするとは・・・」という声が漏れてくる。そして、金融庁と財務局の幹部を挙げた「営業攻勢」からは、次期衆院選で苦戦必至の自民党に対するパフォーマンスの匂いを感じ取っている。

 1年前までの金融庁検査は、貸出債権を厳格に査定したうえで、不良債権の削減と財務内容の健全性維持に軸足を置いた。ところが昨夏以降、「金融仲介機能の維持」に舵を切り、今や「なぜ融資に応じなかったのか」を検査するまでに方針転換した。民間金融界は行政の変貌ぶりに不信感を募らせ、公的資金に関しても「経営責任を問わないと言っているが、民主党政権になったら分からない」と疑ってかかる。