4月にテレビ番組「100分de名著」(NHK Eテレ)でも紹介された『自省録』は、ストア派の哲学者だった第16代ローマ皇帝、マルクス・アウレリウスによる名著である。アパルトヘイト後の南アフリカで人種の壁を越えて国民和解を実現したマンデラ元大統領ほか、ビル・クリントン元大統領、トランプ政権の国防長官であったマティス米海兵隊大将など各国のリーダーが愛読してきた。近年はシリコンバレーの起業家やアスリートたちにも注目されている。
2000年近くにわたって読み継がれてきたこの名著を、『超訳 自省録 よりよく生きる』(4月27日発売予定)の編訳者である佐藤けんいち氏が2回にわたって紹介する。(JBpress)
(※)本稿は『超訳 自省録 よりよく生きる』(マルクス・アウレリウス、佐藤けんいち編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2019)の一部を抜粋・再編集したものです。
皇帝としてのマルクス・アウレリウス
マルクス・アウレリウス・アントニヌス(紀元121~180年)は、紀元2世紀に生きた実在のローマ皇帝だ。そして『自省録』は、彼が激務のかたわら就寝前につけていた「瞑想記録ノート」である。彼はまた、古代ギリシアにはじまるストア派最後の哲学者とされている。
マルクス・アウレリウスは、第16代のローマ皇帝として「五賢帝」の最後に位置づけられている。五賢帝とは、ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスと続く5人の皇帝のことだ。いずれも内政においては善政をほどこし、外政においても地中海帝国としてのローマ帝国の最盛期を実現した。
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当時のローマ帝国の人口は、約6000万人強(紀元前25年時点)と推定されている。マルクス・アウレリウス帝の先々代にあたるハドリアヌス帝時代には、首都ローマの人口は100万人に達していた。最高責任者として、その頂点に立つのがローマ皇帝であった。皇帝の職務がいかに重責であったかが理解されよう。