日本で「良識派」と呼ばれる人たちは「安倍首相が文在寅大統領と胸襟を開いて対話をし、関係改善を図らなければならない」と論評していますが、私は、これは困難な道だと考えています。なぜなら、関係改善を図れるのは、国益を考えているリーダー同士が腹を割って話し合った時だけです。果たして文在寅が行っている政治、政策に国益は反映されているのでしょうか? 韓国の国益を考えるのなら、そもそも下降一途の経済を立て直すため、経済政策を変えているでしょう。また、日本との関係をこのままにしておいてよいとは思わないはずです。
ところが彼はそうではありません。日本との関係でも持ち出すのは、慰安婦、徴用工などの人権問題が中心です。要するに未だに人権派弁護士の思考で仕事をしているというのでしょう。これが、国益を総合的に考えるべき大統領の発想でしょうか。このように偏った思考、しかも「すべて自分が正しい」と考える人と関係改善を目指してひざ詰めの談判をしたとしても、向こうが梯子を下りてくることはないでしょう。相手が下りてこなかったら、日本が一方的に下りなければ妥協点を見いだせません。
日本はもう韓国に対して譲るべきではない
私自身、40年にわたって日本と韓国との良好な関係構築のために汗を流してきましたが、この間の日韓の交渉でも日本は下りに下りてきました。ゴネる韓国に対して、「日韓関係を悪くしちゃいけない」との思いから、日本はギリギリのところで韓国に譲ってきたわけです。例えば慰安婦問題にしても、「法的には解決済み」という点では譲りませんが、アジア女性基金を作って、政府が直接支給しない形で元慰安婦の女性たちに見舞金を渡すというスキームを考え出してきました。知恵を絞り、譲れる範囲の中で、譲歩を重ねてきたわけです。
その結果、韓国の対日感情は、一時、非常に良好になりました。政治の世界と歴史問題では対立もしましたが、民間レベルでの関係はかつてないほど緊密になりました。例えば訪日外国人の数を見てもそれは明らかです。2018年、日本を訪れた外国人は3119万人いましたが、うち韓国からの訪日客はおよそ753万9000人。中国の838万人に次ぐ人数で、全体に占める割合も24.2%と4分の1ほどを占めています。
そういう意味で私は、これまでの日本の韓国への向き合い方が間違っていたとは思いません。しかし、文政権の本質を知りながら、無理難題に譲歩すれば、未来永劫譲歩を繰り返さなければならないでしょう。2015年の慰安婦合意では、お互いに折り合えるところで折り合い、「慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」と宣言されました。こうした両国の外交的成果を政権が変わったからといってちゃぶ台返しを許し、さらに日本が梯子を下りていくのはお互いのためにもなりません。これからの韓国との交渉には毅然とした態度が必要です。