(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)
今年2019年は統一地方選挙と参院選挙が行われる。私も衆参の各選挙に三度ずつ立候補した経験がある。通算成績は2勝4敗だから、それほど誇れるものではない。ただ候補者の苦労というものは、よく分かるつもりだ。選挙に立候補したことがある人は、国民の中のごくごく一部であろう。
そこで今回は、候補者はどんなことを考え、どんなことをしているのか、私の狭い経験に過ぎないが、紹介してみたい。
「朝宣伝」はやることに意味がある
選挙が近づくと中心的な駅前などで、早朝出勤する人に向かって演説している光景によく出くわす。ほとんどの通勤者は、乗るべき電車に疾駆するので、まず弁士が何をしゃべっているのかは、分からない。せいぜい聞いていたとしても暇な老人くらいのものだろう。
私も10年位の衆院候補者生活の中で何百回と朝宣伝をやった。共産党では、この活動を「朝立ち」と呼んでいた。ちょっと誤解を受けそうな表現だが、そうだった。私は新宿区、港区、千代田区が活動範囲となる東京1区の候補者だった。電車の駅は、数え切れないくらいある。新宿駅、東京駅、新橋駅、高田馬場駅、新大久保駅、田町駅、浜松町駅等々、乗降客の多い駅も数多くある。
これらの駅の大半は、東京1区の有権者ではない人だった。少々やったところで印象に残ることはない。それでもと思い朝宣伝に向かうのだが、むなしさが募ったものである。
だが選挙地盤の少ない区会議員などは、この効果は決して小さくはなかった。
区議会議員選挙が近づいていたある日、新宿区内の支持者を挨拶に回っていたところ、その1人が「○○さんという区議会議員は偉いですね。毎朝、高田馬場で演説をしておられる。立派な人ですね」と言うのだ。もちろんこの人は、私がよく知っている共産党の新宿区議会議員で、何期も当選を重ねていた。だが日常活動に手抜きが多く、選挙の度に選挙地盤を増やさなければ当選がおぼつかない人だった。