ところで、その後、証券取引等監視委員会は、新生銀行の関連会社に対する検査を通じてゴーン元会長の損失付け替えを把握し、「本件での日産自動車側取締役会決議にはコンプライアンス上の重大な問題がある」として是正を求めた。また、同じころ、日産の会計監査人である新日本監査法人も、会計監査の過程で本件損失付け替えを把握し、「会社が負担すべき損失ではなく、背任にあたる可能性もある」と日産側に指摘した。
「日産の損失はなく、背任には当たらない」
外部からの相次ぐ指摘を受けて、ゴーン元会長は本件通貨スワップ契約を自身の資産管理会社に再移転することにした。この際、巨額の評価損に対応する追加担保が必要になったが、サウジアラビアの知人が外資系銀行発行の約30億円分の「信用状」を新生銀行に差し入れたため、ゴーン元会長は追加担保の提供を免れることができた。外資系銀行より信用状を発行してもらうためには、通常は保証額の数%の保証料を支払う必要があるが、本件では、知人がこの保証料を負担していたとみられる。
その後、ゴーン元会長は、この知人が経営する会社の預金口座に、中東での販促などを担当しているアラブ首長国連邦の子会社「中東日産会社」の口座から、2009年6月から2012年3月にかけて、3~4億円ずつ全4回にわたり合計1470万ドル(約16億円)を販売促進費名目で振り込ませた。資金は、「CEO Reserve」と呼ばれる日産の最高経営責任者直轄の費用枠から捻出されている。これが特別背任における第二の逮捕容疑である。
ゴーン元会長は、損失付け替えについては、結果的に契約を再移転していることなどから、「日産の損失はなく、背任には当たらない」と主張。また、知人への支払は、サウジアラビア政府や王族へのロビー活動あるいは現地販売店と日産との間で生じていた深刻なトラブルの解決の協力など「日産のための仕事をしてもらっていた」と説明し、正当な業務の対価だったと主張している。
ゴーン氏が結んだ通貨スワップ契約とは
ゴーン元会長の特別背任容疑の原点は、個人資産管理会社が新生銀行と締結していた通貨スワップ契約にある。通貨スワップ契約とは、元来は、特定の外貨を直物で買う(売る)と同時に同額の外貨を先物で売る(買う)一対の外貨契約のことをいうが、現在では、将来の外貨でのキャッシュフローを交換する取引として広く定義されている。