東京地裁に勾留延長を認められなかった特捜部は、特別背任容疑でゴーン氏再逮捕に踏み切った(写真:AFP/アフロ)

 (須田慎一郎:ジャーナリスト)

 日本中、いや世界中を驚かせた日産自動車の会長だったカルロス・ゴーン氏の逮捕。だが、「巨悪」を逮捕したはずの東京地検特捜部が描いていたシナリオは次々と変更を余儀なくされており、捜査の行方は予断を許さなくなってきた。

 まずこれまでの捜査の経緯をざっと振り返っておこう。

 11月19日、東京地検特捜部が2015年3月までのゴーン氏の報酬について、有価証券報告書におよそ50億円分を過少に記載していたとして、金融商品取引法違反の容疑でゴーン氏と日産代表取締役のグレッグ・ケリー氏を逮捕。11月22日に、日産は取締役会を開いてゴーン氏の会長解任を決定。もっとも株主総会の開催はできず、ゴーン氏は日産の取締役にとどまるという状況が続く。

 11月30日に東京地裁は、地検の請求を受け、ゴーン氏の勾留延長を決定。その勾留期限となる12月10日、地検はゴーン、ケリー両氏を起訴し、さらに今度は2018年3月までの報酬約40億円分を過少記載していたとして2人の再逮捕に踏み切る。

特捜部にとって誤算続きの捜査

 10日間の勾留期限が迫った12月20日、地検はさらに10日間の勾留延長を裁判所に対して求めたところ、地検の意に反して、東京地裁がこれを認めなかったため、「ゴーン氏保釈」の可能性が一気に高まり、マスコミは一斉にざわめいた。同時に、ゴーン氏らを長期に勾留してきたことで国際的にも批判を浴びていた東京地検は、その捜査手法を裁判所にまで否定されたことで、極めて苦しい立場に追い込まれてしまった。

 翌12月21日、「ゴーン氏、今日にも保釈」と報じられる中、その瞬間をとらえようと、小菅の東京拘置所前には早朝からカメラマンが待機していたわけだが、そこに「東京地検、ゴーン氏らを特別背任の容疑で再逮捕」の一報が流れる。保釈どころか、ゴーン氏は再び特捜部の取り調べを受けなければならない立場となり、そしてカメラマンたちが待ち望んだ「保釈直後の画」はお預けとなった。

 それでも、25日にはケリー氏のみが保釈され、そのまま茨城県内の病院に入院した。

 これがこれまでの大まかな流れだ。ゴーン氏を特別背任の容疑で再逮捕したことで、特捜部はかろうじて体制を立て直すチャンスを握ったが、その前段として裁判所が勾留延長を認めなかったことは大きな誤算だったことは間違いない。

 これまでこういうケースでは間違いなく認められてきたので、今回も「当然ながら裁判所は、一も二もなく認めてくるだろう」と考えていたんだろうと思う。

 今回のゴーン氏らに対する捜査は、特捜部にとって誤算続きの捜査と言っていい。というのも、彼らの捜査の手法が、かつて特捜部が世の喝さいを浴びた昭和の時代スタイルを踏襲しているからだ。実はこれは完全に時代遅れのスタイルになってしまっていることに、特捜部は気づいていないのだ。