新生銀行はゴーン会長に追加証拠金の拠出を求めたものの、ゴーン会長はそれを拒否し、契約自体を日産に付け替えることにした。契約当事者が日産自動車ということであれば、証拠金の不足があろうが決済不能などあり得ないので、新生銀行に否やはない。こうして、本件通貨スワップ契約は18億5000万円の評価損のまま日産に付け替えられたが、その時の会計仕訳は次のようなものとなる。
(借方)デリバティブ債権 $97,222,222
(貸方)デリバティブ債務 ¥10,500,000,000
想定元本105億円÷契約時レート108円=97,222,222米ドル
本件通貨スワップ契約の日産への付替えは2008年10月のこととされているが、その時の会計処理では、ここで発生していたとされる18億5000万円の評価損は認識されることはない。通貨スワップ契約の含み損が認識されるためには、日産自動車の決算期における会計処理を待たなくてはならない。日産自動車の2009年3月期末において本件通貨スワップが未決済となっていた場合、次の決算整理仕訳が必要とされる。
(借方)デリバティブ債権 ¥8,652,777,758
デリバティブ評価損 ¥1,847,222,242
(貸方)デリバティブ債権 $97,222,222
ドル債権$97,222,222×直物レート89円=円債権¥8,652,777,758
日産は形式上も実質上も損失を認識できなかった
本件通貨スワップ契約は2009年1月にはゴーン元会長の資産管理会社に再移転されたという。ならば、日産自動車は、評価損を認識すべき2009年3月期末を迎えることなく通貨スワップ契約を再移転したのであるから、その受入から再移転までの全ての期間において、18億5000万円の評価損を一切認識しておらず、認識するすべもなかったのである。ゴーン会長は、本件スワップ契約の付け替えにつき、「日産に実損はない」と抗弁しているとのことであるが、事実は、実損がなかったどころか、形式上も実質上も日産には一切の損失が認識できなかったのである。