イタリア映画界の巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督が亡くなった。
今年に入ってからも新作への意欲が伝えられていたが、近年は体調がすぐれず、車いす生活を余儀なくされながら、孤独な少年と異母姉との地下室での共同生活を描いた『孤独な天使たち』(2012)が遺作となった。
前回コラムで「グローバリゼーション華やかなりしいま、信条、宗教、民族、国家など、自らの価値観とは違う目を通し、「長い世界大戦」を招いた「歴史」を顧みることは、決して無駄にはならないはずである。これからしばらく、様々な視点から、その過程を、振り返っていくことにしよう」と書いた。
イデオロギーへの視線が秀逸な『暗殺の森』『1900年』『革命前夜』といった作品のあるベルトルッチに敬意を表し、それらを語る前に、まず映像作家としての功績をたどってみたいと思う。
1972年10月14日、ニューヨーク映画祭最終夜
前作『暗殺の森』(1970)でその独自の映像美を高く評価されていた31歳の新鋭ベルトルッチの新作『ラストタンゴ・イン・パリ』(1972)が初めて人々の前に姿を現した。
妻を突然の自殺で失い、気持ちの整理がつかない安ホテル経営者の中年男ポール。
恋人に愛を語られ、自身をさらけ出す「シネマ・ヴェリテ(真実映画)」を撮られながらも、幸せが実感できない20歳の女性ジャンヌ。
アパート探しでたまたま鉢合わせとなった見ず知らずの2人は、部屋で性行為に及ぶと、何事もなかったかのように、いつも通りの生活に戻っていく。
2人は、日常から隔絶した空間としてのその部屋で繰り返し会い、性行為を重ねる。お互いの過去も名前さえも知らず・・・。
「名前は不要。過去などどうでもいい。邪魔なだけだ」