それでも普段、人民の怒りが噴出しないのは、以下の4つの執政者側の自助努力による。
第一に人民を強く抑え込み、第二に人民に適度のガス抜きを与え、第三に人民の「地雷」を踏まぬよう気をつけ、そして第四に怒れる人民が一致団結しないようにしているからだ。執政者側がこの4つの「掟」を1つでも破ったら、たちまち人民が暴発するリスクが高まることになる。
ここから話を本題に戻すが、今回のD&Gは、あろうことか第三と第四の掟を破ってしまったのだ。これは、中国の俗語で言うところの「完了!」(ワンラ)、すなわち「もうおしまい」というものだ。
今回のD&G事件は、そもそもイタリアの高級ブランドメーカーのD&Gが、最大の顧客となりつつある中国人富裕層に向けて、さらに販路を拡張しようとして、11月21日の晩に、上海で大々的なファッションショーを計画したことから始まる。
折りしも同月5日から10日まで、上海では第1回中国国際輸入博覧会が開催され、初日には習近平主席が演説して、「今後15年で40兆ドル(約4500兆円)分の製品、商品を輸入する」とブチ上げた。加えて、これからやって来る「3つの商戦」(クリスマス、新年、春節)を控え、ファッションショーで景気づけを行うには、まさに絶好のタイミングだった。
D&Gは、ファッションショーの予告のため、4日前の17日から、自社のSNSで、プロモーション動画『箸で食べよう』を、3つのバージョンでアップした。D&Gとしては、話題を呼ぶよう奇抜な内容に仕上げたのだろうが、私は3本とも、見て唖然としてしまった。箸を持った中国人の女の子が、四苦八苦しながらイタリアのピザとパスタとデザートを食べようとしている滑稽な映像なのだ。
世界最大の市場を一瞬にして失ったD&G
同じイタリアの文化人で、作曲家プッチーニのオペラ『トゥーランドット』や、ベルトリッチ監督の映画『ラスト・エンペラー』などでも、中国人蔑視を、端々に感じることはあったが、これほどひどくはなかった。何も知らずにこの3つの映像を見たら、これらは反中に凝り固まったイタリアのネトウヨが作ったものと思うに違いない。
さらに、19日から21日にかけては、ガッバーナ氏が中国に対する差別的発言をSNSで行っていたことが、次々に暴露された。「中国は無知で汚くて臭いマフィアだ」といった類いの発言だ。
それらによって、中国2大ECサイトの天猫(アリババ)と京東が、D&Gのコーナーを削除した。また、ファッションショーに参加予定だった女優の李冰冰(リー・ビンビン)や歌手の王俊凱(ワン・ジュンカイ)などが、次々に不参加を表明。女優の章子怡(チャン・ツィイー)に至っては、「今後二度とD&Gの商品を使わない」と、訣別宣言した。
D&Gは、当初は「サイトがハッキングされた」などと言い訳をしていたが、23日になって謝罪文をアップした。だが、すべては後の祭りで、D&Gは一瞬にして、世界最大の市場を失ってしまった。