今回もJBpressでこういう主張を展開すれば、ネット上には、きっと反対の意見が溢れることだろう。自分と違う意見が来るのは、全くおかしなことではない。だがやってくるのはたいがい、根拠のない誹謗中傷ばかりで、政策的非難はそう多くはない。
例えば、「太陽光、風力をもっと生かせ。再生可能エネルギーにシフトせよ」という意見も、私はおかしな意見だとは思わない。だが、再エネは電力供給のメインストリームにはなりえない。
北海道胆振東部地震の後、北海道の冬を迎えるにあたり、太陽光や風力発電を火力発電に取って代わらせるべき、といったような意見は全く聞かれない。個人の住宅で自分のところの電気の一部を太陽光発電で賄うということは可能だが、太陽光は夜には発電しないし、社会のインフラを支えるほどの出力も安定性も望めない。胆振東部地震で、そのことがよりはっきりと認知されたのではないだろうか。
加えて、この間、九州電力が初めて、太陽光発電の出力制御を実施した。需要の減少が見込まれている時間帯に太陽光発電施設から多量の電気が供給されると、大規模な停電を引き起こす可能性があるからだ。
私はずいぶん前からツイッターで、「九州では太陽光発電を制御する事態がありえる。そうなったときに、一部の新聞は『玄海原発が再稼働したから太陽光を制御することになる』と書くはずだ」と予言していた。
実際、出力制御が発表されると、新聞やテレビの中には、「玄海原発が稼働したので電力供給量が増え、再エネ事業者が割りを食わされた」的な報じ方をした新聞社が多数あった。
だが事実はそうではない。原発が動いているから太陽光を抑制したのではない。調整する役割は、普段は火力発電所が担っている。それでも調整しきれなかったから太陽光を抑制したのだ。
なにより太陽光の電気はFITという固定価格買い取り制度の下で再エネ事業者から買い取っているのでコストはべらぼうに高くつく。そのツケは、われわれ一般消費者の電気料金に回されているのだが、そのことはマスコミも積極的に報じようとしない。
放射性廃棄物の管理コストは高くない
私が原子力を推しているのは、コスト面で莫大なメリットが国民にも国家にもあるからだ。何と言っても既設原発は発電コストが安い。実際、大飯、高浜の原発を再稼働させた関西電力は電気料金を引き下げた。九州電力もそのうち値下げ原資が出てくるはずだ。
コストはインフラにとって極めて大切な概念だ。だが、世の中の世論の大勢は「安全性をないがしろにしてまでコストを優先する必要はない」という。さらに、「原発は低コストと言っても、放射性廃棄物の処理や最終的な廃炉コストも含めると高くつく」という意見もある。
しかしそれも正確ではない。
仮に国内の既存原発をフル稼働させたとして、そこから出てくる使用済み核燃料を管理するコストは、年間10億円にも満たない。再処理した後の高レベル放射性廃棄物は、熱を冷ますために地中で50年ほど保管しなければならないが、そのコストは年90億円ほどだ。
一方、福島第一原発の事故後、全ての原発を停止させていた時期に、火力発電用の化石燃料を日本は大量に輸入していた。そのコストは、最大で、2013年当時の為替レートでみると、1日100億円以上だ。単純計算で年間3兆6000億円にもなる。
それに比べたら、使用済み燃料や高レベル放射性廃棄物の管理コストはずっと安くつくのだ。
それを政治家や霞が関の役人は知っている。ならば、電力供給体制が脆弱化している北海道においては、せめて泊原発の再稼働を推し進めるべきではないのか。
もうじき、厳しい冬が到来する。
安全性やコストについての正確な情報も提示せず、ただただ世論の反発を恐れて、「規制委員会のお墨付きが出るまでは我関せず」の態度を取り続けるのは、将来に禍根を残すことになりかねない。
一部の反発を恐れるあまり、環境には多大な負荷をかけ、電力会社には化石燃料の購入に膨大なコストをかけさせ、国民にも余分な電気料金を負担させ続けている。このような異常事態はそろそろ終わりにするべきではないだろうか。