川内原発再稼働、「原発ゼロ」状態に幕

九州電力が公開した、川内 (せんだい) 原子力発電所(鹿児島県薩摩川内市)の原子炉容器内に入れられる燃料棒(2015年7月7日撮影)。(c)AFP/KYUSHU ELECTRIC POWER 〔AFPBB News

 福島第一原子力発電所の事故発生から7年半が過ぎた。以来、日本のエネルギー政策は大幅な見直しが迫られるようになった。しかし再生可能エネルギーだけで国内の電力需要を満たせるわけはなく、日本は日々莫大なコストをかけ、化石燃料を燃やして電気を賄っている。この状態を続けることはわれわれにとって得策なのだろうか──。過度な原発アレルギーに陥り、真っ当な議論ができなくなっている現状に、『原発の正しい「やめさせ方」』の著書がある政策アナリストの石川和男氏(NPO法人社会保障経済研究所代表)が警鐘を鳴らす。(JBpress)

胆振東部地震でピタリと止んだ「脱石炭」の声

 そろそろわれわれは、電力問題についてリアルに考えなければならないのではないか。

 北海道胆振東部地震で、道内最大の石炭火力発電所・苫東厚真発電所が止まってしまい、北海道全域がブラックアウトに陥った。国内電力史上、最大規模の大停電は復旧にも時間を要し、北海道の人々は苦しい生活を強いられた。

 先ほど、苫東厚真発電所をあえて「石炭火力発電所」と紹介したのは、この発電所が石油でも天然ガスでもなく、石炭を燃焼させ発電している施設であることを思い起こしてほしいからだ。

 この数年、世界的に「脱石炭」の大きな流れがきている。「地球環境のことを考えるならば、環境負荷が大きい石炭火力はやめるべきだ」という意見が勢いを持つようになり、フランスは2021年までに石炭火力発電を全廃することを決め、ドイツも脱石炭火力に向けた委員会を立ち上げ、2018年末までに廃止時期を含んだ最終案をまとめるという。ひところ大気汚染が深刻だった中国も、石炭燃料の使用量削減などで大気の状態はかなり改善している。

 民間企業の側からも「脱石炭」の動きは強まっていた。アップルやフェイスブックは、自社で使うエネルギーを100%再生可能エネルギーにすると表明している。日本国内でも、日本生命や明治安田生命が石炭火力への投融資から撤退するとしている。日本の世論ももちろん「脱石炭」だった。そう、胆振東部地震の前日までは、だ。

 胆振の地震で大規模なブラックアウトが起きると、少なくとも日本国内で「脱石炭」を煽るような報道はなくなった。一刻も早く苫東厚真の石炭火力発電所が再稼働し、以前のように発電できるように、と願うようになった。

 私は、そのこと自体を批判するつもりはさらさらない。

 ただ不審に思っていることがある。北海道には現在停止中の泊原子力発電所がある。私は、むしろこの泊原発の早期再稼働に向けた準備を今すぐにでも行わせるべきだと思っている。少なくとも、北海道における安価かつ安定的な電力供給のための1つの選択肢ではあるはずだ。

 ところが、北海道全域を襲った非常事態を前にしても、泊原発の活用についての話が、政治の側からも役所の側からもほとんど出てこなかった。これは異常な事態と言わざるを得ない。なぜなら、多くの政治家や官僚は、原発再稼働こそが電力危機を回避する唯一の現実的方法だということを重々理解してはずだからだ。

 しかし実際には、政府からは菅義偉官房長官が会見の中で、「現在、原子力規制委員会で新規制基準に基づく安全審査中であり、直ちに再稼働をすることはあり得ない」と述べたのが、唯一「泊原発再稼働」に触れた発言だった。