私は政策アナリストという仕事柄、政治家、とくに政権与党の国会議員と顔を合わせる機会が多いが、みな私的な場では「泊原発を再稼働すれば北海道の電力問題も解決するんだからやればいい」と言う。しかし、公の場でそれを口にする人はほとんどいない。例外的に「再稼働」を堂々と主張しているのは自民党の青山繁晴参議院議員くらいではないだろうか。

 もちろん霞が関にも声を上げる者はいないし、泊原発を新規制基準に基づいて審査している原子力規制委員会の更田豊志委員長も、「今回の地震で審査が影響を受けることはない。急ぐこともない」と従来の方針を変えようともしない。

 では、マスコミはどうか。原発再稼働を正面から主張しているのは主要紙では産経新聞のみで、後は再稼働反対の論陣を張っている。

 まるで、日本全体が「原発再稼働」について、強烈な言論統制下にあるかのようだ。もちろん誰も統制してはいない。批判を恐れて、自ら口を閉ざしてしまっているとしか思えない。

 これではあたかも世の中全体で、「電力については、北海道電力がなんとかするまで、道民はじっと耐えよ」と言っているのと同じだ。

「触らぬ神に祟りなし」で口閉ざす

 規制委員会の新基準に基づく審査の下では、泊原発の再稼働はいつになるかは全く予想できない。しかし旧基準に照らし合わせるならば、その気になれば、2週間もあれば再稼働ができてしまう。実は、法的にも問題はない。

 あとは地元の知事が同意すればいい。この知事同意にも法的な根拠はないのだが、地元自治体と電力会社との間の協定に基づいて、電力会社は知事と議会から了解をもらうことが一般化しているにすぎない。つまり、その気になれば泊原発の再稼働は今すぐにでも可能なのだ。

 だが、政治家も官僚もマスコミもあえてそれに触れようとはしない。批判を恐れて、「触らぬ神に祟りなし」を決め込んでいる。

 結局、北海道の電力供給事情は今もいっぱいいっぱいの状態だ。苫東厚真に大きなトラブルが起きれば、一気に需給はひっ迫する。その一方で、泊原発がまったく稼働せず管理費ばかりを食い続けている状態なので、肝心の北海道電力の経営が日に日に厳しくなっている。北海道の電力事情は、今も非常事態下にあると言ってよい。

 私は機会があるごとに「泊原発は再稼働させるべき」と発言してきたし、自分のツイッターでもたびたびそう主張してきた。それに対して、一部の人からは賛同のつぶやきが返されてくるのだが、多くは「福島の二の舞になる」とか「直下型地震が起きたらどうする」といった批判だ。

 だが、もしも直下型地震がやってきたとしても、それで原子炉が壊れることはない。放射能が漏れるわけでもない。今回の胆振東部地震でも、泊原発は一時、外部電源が失われたが、非常用ディーゼル発電機がきちんと稼働し、事故は起こらなかった。活断層が多少ずれたところで福島第一原発のような大事故が起こるわけではないのだ。

 実は政治家や官僚、電力や原子力の専門家もそのことはよく分かっている。それなのに、ごく一部の専門家らを除き、「原発再稼働」については一切口を閉ざしてしまっている。世間の「原発アレルギー」を極度に恐れてしまっているのだ。