人数は少なく見えるかもしれないが、「採用」「雇用」問題になると、韓国の世論は過敏に反応する。

 何しろ、過去最悪とも言われる雇用情勢で、空前の就職難が続いているからだ。

最悪の雇用情勢で「採用」問題に敏感な社会

 韓国では、一部大企業の業績は好調だが、雇用は増えない。青年層の実質的な失業率は20%を超え、「大学は卒業したが職がない」ことが深刻な社会問題になっている。

 就職に成功しても、民間企業の場合、いつリストラに遭うか分からない。だから、若者間で、「公務員」や「公企業」への就職人気は日本では想像できないほど高い。

 ソウル交通公社も、そんな人気会社の1つだ。平均賃金は7000万ウォン(1円=10ウォン)近く。定年60歳が保証される。勤務先はソウルかその近郊だ。

 安定した公企業、ソウル志向が高い若者の人気の的だ。

 2018年の下期定期採用試験には、555人の募集に3万340人が応募した。

 それほどの「夢の職場」に人知れず「正規職」になれるルートがあり、よりによって家族や親戚を正規職にしていたとなれば、批判が沸騰するのも十分理解できる。

悲劇で始まった採用が…

 ソウル交通公社が運営する地下鉄では、2016年春にソウル市内の駅でホームからの転落事故を防止するスクリーンドアの保守・修理(メンテナンス)にあたっていた若い作業員が死亡する事故が起きた。

 この作業員が、厳しい労働環境で働く外注業者に所属していたこともあり、管理や労働実態を把握できていないことへの批判が相次いだ。