独自資料「年齢別選手表」にあるもの

 広島の球団史にはFAによって主力選手を流出した苦い過去がある。戦力補強につぎ込む潤沢な資金があるわけではない。だからこそ、好素材の選手を的確に獲得するドラフトがチームづくりの中心。そこに2007年から希望入団枠制度が廃止されたことがチーム強化の追い風となった。

 事実、2007年ドラフト以降、獲得した選手が今広島の中枢を担う。

 開幕戦のスタメンはエルドレッドを除く8選手が2008年以降の生え抜き入団選手だった。

 広島には補強ポイントを的確に、バランスよく獲得できる独自資料がある。松田元球団オーナーが考案した「年齢別選手表」だ。

 縦軸に「年齢」が示され、横軸はポジション別に区切られている。投打の左右別の欄もあり、現有戦力のバランスを一目で確認できる。どこのポジションに、どの年代の、どんなタイプの選手が必要か。そうしたチーム構成がつねに共有されているわけだ。加えて若い有能なスカウトの眼力もあり、的確に新しい力をチームに吹き込むことができている(そんな流れに逆らったのは昨秋ドラフトで、前年に指名した日大三出身の高卒1年目捕手、坂倉將吾がいたにもかかわらず、広陵中村奨成捕手を1位指名に踏み切ったことを付記しておく)。

 このドラフト戦略は、2009年に開場したマツダスタジアムもひとつの転機となった。広い球場を生かした野球を展開するため、スピード感ある野手を求めた。今やチームの顔となった「タナキクマル」(田中広輔・菊池涼介・丸佳浩)のセンターラインだけでなく、4番鈴木も、今季ブレークの野間も、安部友裕も西川龍馬も、俊足が武器のひとつだ。

 3年連続リーグトップのチーム盗塁数だけでなく、果敢に次の塁を奪う走塁は広島に浸透。緒方孝市監督が標榜する機動力野球を体現したのは、的確なスカウティング戦略があったことを忘れてはいけない。