「SNSを中心に、デジタルな世界でのコミュニティやネットワークが拡大していますが、最近はその反動としてリアルなコミュニティの重要性が再認識され始めています」

 おもに管理し、作業する場だったオフィスが、クリエイティブな場所へと変わり、そのクリエイティビティを高めるための「リアル」な要素を兼ね備える必要がある――。いわば「ハード」の価値だけではなく「ソフト」面の価値を訴求すること。

 オフィスビル需要にはこうした今までにない「価値」が反映されているのである。

 その象徴として起きているのが「ワンフロアが大きいほうが交流しやすく、社内のコミュニティを育みやすい」という流れだ。企業の集積が進むビジネスエリアであれば、社外とのコミュニティを醸成することもできる。

「再開発が進む渋谷が好例です。米グーグル日本法人は、2019年に六本木から渋谷ストリームに移転しますが、貸室面積1.4万坪のオフィスフロアを一括賃借します。人員増を視野に入れ、現在の実に2倍以上の社員を収容できるスペースになる予定です」

「大手町ビルヂング」に注目が集まる理由

 この変化は新築の大きなビルにとどまらない。

 佐久間氏が「注目のモデルケース」として挙げるのが、日本経済の中心地・丸の内の「大手町ビルヂング」である。

 大手町ビルは、三菱地所が本社にしてきた低層・横長のレトロなビルだ。

 竣工したのは1958年なので、築60年である。再開発ブームの中、三菱地所は「大手町ビルヂング」を取り壊して再開発するのではなく、リノベーションして活用しようとしている。

「大手町ビルに入居するのは、トヨタ自動車の自動運転を支える通信技術やインターフェイスなどを開発する部門などの先端企業やコワーキングスペースです。従来の丸の内は金融機関など大企業の本社、法律事務所、会計事務所など、賃料負担力の高い業種や企業が多かった。そうすると多様性や活気という点でほかの地域に劣ってしまいます。加えて、建物自体もスクラップアンドビルドすることが多かった。大手町ビルヂングは築古の物件をリノベし、賃料を抑えることで、多様な企業や人を呼び込もうとしている。丸の内にエコシステムを創造しようという、非常に画期的で新しい試みです」