ほか、馬英九政権時代の総統府スポークスマンで、次回の台北市議選に国民党から立候補予定の羅智強氏は、自身のFacebook上で「蔡英文と謝長廷のいずれが、像蹴り事件の元凶か?」と題したアンケートを実施。いずれにしても民進党叩きが目的のアンケートなのだが、6600人近い回答を得る(投稿自体にも2900人以上の「いいね」などの反応が付いた)など、この問題をうまく利用して支持者固めや政権与党叩きに結びつけることに成功している。

羅智強氏がFacebook上に投稿したアンケート。完全に政権叩きの道具になっている
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 また、過去に靖国参拝反対運動をおこなうなど、対日強硬派で知られる藍色陣営寄りの立法委員(国会議員に相当)の高金素梅氏も、今回の一件を受けて怪気炎を上げている。

 高金氏は、かつて沖縄戦で犠牲になった台湾人日本軍兵士を追悼する石碑に蔡英文が揮毫した行為を、日本の侵略行為を肯定する振る舞いだとして批判。その文脈のなかで、像蹴り事件についても「たまたま起きたものではない」と述べ、「(日本に媚びる)民進党は台湾を裏切った失政集団だ!」と、激烈な政権批判に結びつけている。

 藍色陣営系の媒体のほか、「反・蔡英文」を打ち出すネット上の政治グループはこぞってこの問題を批判的に取り上げており、彼らのFacebookのポストには数百件近い怒りの書き込みが殺到する例も珍しくない。道義的に考えて明らかにひどい問題(緑色陣営の支持者でも不快感を抱かざるを得ない問題)が起きたことで、像蹴り事件は藍色陣営の支持者の団結を固める効果をもたらしているようだ。

グダグダのコメントを出す民進党候補

 対して困っているのが与党・民進党の側である。像蹴り事件が起きた台南市はもともと、民進党の固い地盤のひとつで、日本への好感度も高い地域だ。民進党は対日歴史問題については国民党ほど厳しい姿勢を取っていないが、いっぽうで台湾という土地への愛着を訴え、かつリベラルな価値観を前面に打ち出している党である。

 台湾人の女性が過去に意に沿わぬ苦しみを被った点や、フェミニズム的な観点からは、民進党としても慰安婦問題にそれなりの誠実さを示さないと支持者に申し訳が立たない。いっぽう、国民党のような対日歴史問題批判は票につながらないし、このジャンルで国民党と勝負しても民進党の強みは打ち出せない。

9月13日、市内の飲食店への訪問後にメディア取材に囲まれる、民進党の次期台南市長候補の黃偉哲氏(左)。エプロン姿で深刻な話をする。『中天電子報』より