書籍などで、主に本文が配置されている部分を版面(はんめん、はんづら)という。小説は版面によって、読んだときの印象や、読みやすさが大きく変わる。このため、版面の作りに大きな労力をかけて小説を書いているのが、小説家の京極夏彦氏だ。
2018年6月2日に東京・下北沢の書店「本屋B&B」で「[京極夏彦×装丁夜話]京極夏彦の版面」というイベントが開催された。このイベントを企画したのは、装丁家の折原カズヒロさんと坂野公一さん。今回は、坂野さんがこれまでに何冊もの装丁を手掛けた作家京極夏彦さんを呼んで、版面づくりの詳細を語ってもらった。
版面によって読み味が違う
京極です。坂野さんとのお付き合いは古くて、彼が「独立するんです」と報告にきた際に、じゃあ初仕事に『豆腐小僧』の装丁を、と依頼したんですが、まさかこんなに立派な装幀家になるとは思いませんでした。「装丁夜話」のスペシャル版ということで呼んでいただいたのですが、きょうは装丁(カバー)ではなく本文(ほんもん)の版面の話をします。
僕の小説は、見開きやページの終わりで必ず文章が終わる、という噂をお聞き及びかもしれません。「もともとグラフィックデザイナーだから、こだわりがあるんですよね」とか言われることが多いんですが、まったく違います。「こだわり」というのはどうでもいいことに固執するということですが、これはどうでもいいことではありません。今のところこのスタイルが一番効果的だと考えているから行っているだけで、何のこだわりもないです。
そこにグラフィックデザイン的な判断基準はあまり関係ないんです。いわゆるタイポグラフィーと小説の版面作成は、発想が根本的に違っています。