アフリカのカナリア諸島で、ちょっとした傷口からウエルシュ菌が入り込んだと思われるスチリン氏も、普段の体調ならさっさと白血球が食べてしまって一件落着だったと思われます。
それが、何らかの免疫バランスが崩れていて、やっかいな場所でウェルシュ菌が繁茂し始めてしまったために、大事に至ってしまったわけです。
ウエルシュ菌は感染した部位の筋肉を壊死させながら症状が広がり、増殖しながら毒素を撒き散らしていきます。
創傷とその排膿は強い悪臭を放つことから「ガス壊疽」と呼ばれます。その臭いの大本は、実は<おなら>の臭さと同根のものです。
強烈な濃度で凝縮して、人間の臭覚を刺激しているもので、アフリカの島で特殊な病原菌に感染したというわけではなく、誰もが持っている普通の常在菌が、あらぬ身体部位で感染・繁殖したために、致死的な状況になってしまった、というもの。
そのため、スチリン氏と同じ飛行機に乗っていた乗客乗員には、感染症と言いながら、その伝染の心配はない、とアナウンスされたものだろうと察せられます。
菌の毒素も使いよう
ボツリヌス菌同様、クロストリジウム属の嫌気性細菌は、体内のあらぬ部所に入り込むと、とんでもない悪さをしかねません。
しかし、その性質も、制御して使えば、役に立つこともあります。
クロストリジウム属の菌同様、嫌気性の「生き物」として、ガン細胞があります。
ガンは私たちの通常の遺伝情報と同じものを持ちながら、その特殊な部分が発現し、通常の呼吸を行わず、解糖系と呼ばれる「無機呼吸」で生きており、もっぱらブドウ糖を「エサ」として暮らしていることが知られます。