20世紀のこれら2つの例は考察に値するだろう。安倍首相でさえ2014年のダボス会議で、今日の日中の緊張関係は第1次世界大戦前夜の欧州情勢を思い起こさせると発言している。この発言で首相は強い批判にさらされた。外交的には決して賢明な発言だったとはいえない。しかし歴史家の立場から考えると、このような対比は的を射ているようにも思う。特に米中の関係を考える際には。

 しかし、今日と、かつて(1910年代や1930年代)との違いも大きい。このことは我々に楽観的な見方も提供してくれる。第1に、よく言われることだが、グローバル経済の結びつきがかつての1910年代や1930年代よりも極めて強くなったということだ。図1のデータ(全世界のGDPに占める貿易の比率の推移)はそのような見方を助けてくれる。

図1. 全世界のGDPに占める貿易の比率 1500年~2011年
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 今日、国際貿易が世界の経済取引に占める割合(輸出入が世界全体のGDPに占める割合)はかつてないほど高まっている。現在それは約60%であり、1914年の2倍、1930年代の3倍にのぼる。理性的な政治指導者であれば軍事的な力は行使しないはずである(さらには経済的な力の行使も)。そのような行動は、お互いが置かれる経済状況の破壊に直結するからだ。

 加えて、トゥキュディデスの罠の前提条件は、新興勢力が本当の意味で既存の勢力のライバルとなり、既存勢力を脅かすことだ。しかし今日、中国が本当の意味でアメリカの軍事的な対抗相手になったとはいえない。図2はそのような見方を裏付けている。

図2. 国別軍事予算 1914年~2008年
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