だが、金融のテクニックだけで本当にバブル崩壊を防ぐことはできるのであろうか。バブルは貿易黒字が急増する国に出現する。儲けたお金の使い道がないことが、不動産価格を高騰させる。つまり、貿易黒字という燃料がなくなればバブルは崩壊する。

 習近平は独裁体制を築き上げることに成功した。そして自身の任期にも関連すると思われるが、2035年という起源を区切って、それまでに中国を偉大な国にすると言い始めた。

 それを受けて、米国の世論は急に戦闘モードに入った。ポピュリストであるトランプ大統領がその世論の変化を見逃すことはなかった。それが、今回の貿易戦争の背景にあると見て間違いない。

戦いはどちらかが倒れるまで続く

 21世紀において、「ツキジデスの罠」が熱い戦争に発展することはない。しかし、覇権国の世論は、新たに現れた競争相手が覇権国を挑発し始めると急速に戦闘モードに入る。

 米国が中国を見る目は厳しさを増していた。習近平はその視線の変化を敏感に感じ取るべきであった。しかし、彼は自己の独裁を強化する手段として、昨年の紫禁城におけるパフォーマンスのように、米国との対等を演出した。そして、2035年にまでに世界の覇権国になると宣言した。それは米国の世論を一気に硬化させた。

 米中は「ツキジデスの罠」にはまり、どちらかが倒れるまで戦い続ける。熱い戦争にはならないが、貿易だけではない。金融、先端技術、知的財産権、ソフトパワー、シャープパワーなど、あらゆる分野で死闘が繰り返されることになろう。