(文:上 昌広)
2018年が明けた。今年、医療はどうなるだろう。私は医療崩壊が加速すると考えている。その理由は、我が国の医療制度が高齢化・情報化・グローバル化した世界に適合しなくなっているからだ。
我が国の医療は、官僚がグランドデザインを描き、価格統制と供給量の規制を通じて現場を統制する。手足となるのは、医師会や大学医局だ。高度成長期、潤沢な補助金と高価な診療報酬に支えられ、医療機関の経営は安泰だった。典型的な護送船団方式だった。
ところが、状況は変わった。財政難に喘ぐ我が国に、護送船団を支え続ける余力はない。医療システムを維持するには、1990年代末に金融界が経験したような大改革を避けては通れない。当面は、試行錯誤を繰り返しながら、新しい仕組みを作り上げるしかない。
では、今年どこに注目すべきだろう。私は、今春に予定されている診療報酬改定と、今春から始まる新専門医制度だと思う。本稿では、前者を解説しよう。
有名・名門病院も大赤字
昨年末の予算編成で、診療報酬本体が0.55%引き上げられたことが話題になった。医療界にとっては福音だ。ただ、医師・看護師不足などの理由で人件費が上がっている昨今、この程度では焼け石に水だ。このままでは、立ちゆかなくなる医療機関がでてくる。意外かもしれないが、最初に破綻するのは東京の病院だ。
なぜ東京かと言えば、我が国の診療報酬が厚生労働省によって全国一律に決められているからだ。診療報酬が抑制されれば、物価が高い東京の医療機関がもっとも影響を受ける。
では、どのような医療機関が特に危険なのだろうか。それは総合病院だ。不採算の診療科を切り捨てる経営上の「選択と集中」ができないし、すべての診療科を揃えるために、逆にすべてが中途半端な結果になってしまう。
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