成果を出すには「罪悪感」を抱かせないこと

ビル氏は、TLCの事業でもリーダーの意識の変容ををサポートするザ・リーダーシップ・サークルを展開している

——例えば、彼女が本社のオフィスに出勤せず、1500km離れたミネアポリスの自宅で仕事をすることや、夕方、子どもたちの帰宅以降は仕事をしない、というのもそうですね。不在である時間が長いことに支障はありませんか。

ビル それは彼女の仕事環境を整えるということであり、大きな問題ではありません。むしろ、スカイプで重役会議をしている最中に、息子が帰ってくる時間が近づいたら、彼女に言わせるのでなく、私から「会議は一旦終了にしよう」と言ってスカイプを切ります。彼女が「おかえり」と笑顔で、子どもたちに言えるようにね。

 大切なのは、罪悪感を抱かせないことです。母としても、また組織のリーダーとしてもうまくやれていない、板挟みになっていると思わせるような状況を作ってはいけない。経営者としてそこを守れば、彼女のように優秀な人は常に仕事と、仕事以外の線引きをし、バランスをとり続けることができます。

多様な人材の可能性を引き出すことが企業の利益に

——それは、レザーマン氏以外のワーキングマザーにも言えることだと思いますか? 

ビル もちろんです。もっと言えば、ワーキングマザーでなくてもそうです。我が社の社員はほとんどがワーキングマザー、あるいは“ワーキングファザー”です。中には障がいがある人もいる。あるいは別の理由で時間的・物理的な制約がある人もいる。多様な条件にある人々の才能や能力を全て捨てていると、企業にとっては損失でしかありません。

 経営者は、従業員すべてにそれぞれの人生があるということを第一にわかっていなくてはいけない。そこに敬意を払わなければいい仕事を期待することはできません。経営者がすべきことは、従業員を時間的に拘束することではない。仕事と家庭の責任の間で引き裂かれることがないように注意を図ることです。自分の人生を大切にしながら仕事に集中できる職場環境、状況を整えることです。そうすれば、時間ではなく効率を持って仕事の成果を出すことができます。

——そのような認識を持って経営される組織は、それほど多くないように思います。特に日本では、成果を出すにはある程度の時間を仕事に費やすことが求められます。役職につく働く母親はいますが、仕事と家庭の両立ジレンマはなかなか解消されないように思います。

ビル 確かに難しいですね。ただ、我が社はこれまで多くの日本の企業をクライアントに持っていますが、日本のグローバル企業の優秀な経営陣の多くは、私と同じ意見を持っているように思いますよ。日本はまさに働き方改革に積極的に取組んでいる段階にあるように感じています。仕事がすべての中心という価値観から離れたキャリアでの成果の見出し方を探す動きが進んでいるのではないでしょうか。もちろんまだまだ課題は残っているでしょう。

 日本に限らず、世界にある我々のクライアントの70%が、「ワーキングマザーフレンドリー」とは言い難いです。ワーキングマザーの可能性に気がついていない企業が多いのは残念ですね。