1.第2期習近平政権が直面する主要経済問題

 習近平政権は10月の党大会(中国共産党第十九回全国代表大会)を経て第2期に入った。景気動向を見ると、一昨年および昨年は経済成長の減速を懸念する見方が強まったが、今年は輸出、投資、企業収益の回復などを背景に数年ぶりの安定した状況にある。

 このため、悲観論に傾いていた民間企業の経済の先行きに対する見方もある程度明るさを取り戻し、昨年伸び悩んだ民間設備投資も徐々に回復してきている(注)。

(注)足許の経済情勢に関する詳しい説明は、キヤノングローバル戦略研究所ホームページ掲載の筆者リポート「中国経済は緩やかな低下傾向から横ばい圏内の安定状態へ ~深圳をモデルとする「創新駆動発展戦略」に基づく雄安新区の建設~<北京・広州・上海出張報告(2017年10月22日~11月5日)>」をご参照ください(URL= http://www.canon-igs.org/column/171124_seguchi.pdf)。

 中国政府は公式文書の中で、今年の夏場以降、経済状態を表す表現を変更し、従来の「平穏」(=安定)から「穏中向好」(安定しつつ良好な方向へ向かっている)としている。この表現を中国政府が用いるのは筆者の知る限り2013年4Q以来である。

 足許の様々な経済指標から総合的に判断して、マクロ経済については、予想外の外的ショックがない限り、少なくとも2020年頃までは安定した状態が続く可能性が極めて高いと考えられる。この点では第2期習近平政権は順調に滑り出した。

 しかし、もともと習近平政権の最重要経済政策課題はマクロ経済政策運営ではなく、供給側構造改革の実行である。

 党大会における習近平主席スピーチの中でも、新時代の主要な社会矛盾は人民の需要と発展の間の不均衡であるとして改革の全面的深化の堅持を強調している。

 この主要な社会矛盾の原因となっている構造問題は難題ばかりである。特に重要課題であると考えられるのは、第1に、貧富の格差・都市と農村の格差、地域間格差など格差の縮小、第2に、地方財政の健全化、第3に国有企業改革である。

 このほかにも、医療・社会保障・環境等民生問題の改善、イノベーションの促進、金融自由化の推進など取り組むべき課題は山積している。

 第1の格差の縮小は社会を安定させ、共産党に対する国民からの信頼を確保していくうえで極めて重要である。

 第2の地方財政の健全化は地方財政の安定的財源確保、不動産開発収入依存体質からの脱却、不動産バブル形成・崩壊リスクの軽減、企業債務の縮小につながる。

 逆にこの問題を先送りすれば、中国経済はこれらの様々な深刻なリスクに晒されることになるため、この課題への取組みも非常に重要である。

 第3の課題は、中国の主要産業の中核として中国経済を支えてきた重要な存在である国有企業の経営問題である。

 近年、国有企業は民間企業との比較において、経営効率の低さ、利益率の低さなどが顕著であり、その改革の必要性が強く認識されている。

 この改革が遅れると中国の産業競争力が低下し、貿易赤字、財政赤字の拡大をもたらし、中国経済の安定確保に重大な悪影響を及ぼすと考えられている。

 第2期習近平政権が直面するこれらの重要課題のうち、格差問題と地方財政問題は非常に深刻な状況にあり、早期に大胆な改革の断行が不可欠であると筆者も考えている。

 これに対して、国有企業改革に関する筆者の見方は一般的な見方とやや異なる。以下ではその点について説明したい。