日本よ、“食料を失う日”のために備えよ

マッキンゼー「食料争奪時代」報告書を読む(後篇)

2017.12.15(Fri)漆原 次郎

インセンティブで企業を巻き込む他国

山田唯人(やまだ・ゆいと)氏。マッキンゼー・アンド・カンパニー パートナー。2010年に慶應義塾大学経済学部を卒業後、同社に入社。おもにクロスボーダーのM&A戦略策定のプロジェクトに従事し、東京、東南アジア、欧州のオフィスにて勤務。最近では日本企業の新興国新規参入戦略に従事。2016年10月に同社が公表した報告書『日本における農業の発展、生産性改善に向けて』の作成にも携わる。

 報告書では、他国がとる食料安全保障戦略を紹介している。その1つがスイスだ。特に、<食料安全保障を国の政策の中枢に位置づけていること> <省庁間・官民の垣根を超えた検討・推進体制づくりをしていること> <体制整備に加え政策運営・運用・実行を担保するためのインセンティブを含めた仕組みの構築があること> の3点で先進的だという。

「スイスでは『経済に関する国の供給システム(NES)』という仕組みがあり、そこに食料供給部門が入っています」。NESには、緊急時に必要となる物資やサービスの供給確保に向けて検討する部門があり、エネルギー供給部門や医薬品供給部門と並んで食料供給部門が置かれている。食料安全保障が国の政策の中枢に位置づけられているわけだ。

「このシステムに民間人を入れている点も興味深いところです」。NESの代表者は民間部門出身者であることが定められている。また、各部門の政策担当者にも民間人が含まれている。山田氏は「官」や「学」にはない「民」の、リスクやトレンドを捉えるセンスを重視する。システム体制はまさに官民を超えたものとなっている。

「備蓄の仕組みを見ても、インセンティブを示すことで民間企業をうまく巻き込んでいることが分かります」。スイスには、政府と契約を結んだ民間企業が、食料や物資の備蓄をする義務を追う代わりに、税や金利の面で優遇を受けられるという仕組みがある。企業が感じられるインセンティブの存在が、政策の運営・運用・実行を確実なものにしているようだ。

備蓄義務と税・金利優遇を備えて民間企業の巻き込みを図るスイスの仕組み。「『グローバル食料争奪時代』を見据えた日本の食料安全保障戦略の構築に向けて」より。
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 報告書ではスイスの他、イスラエルの戦略も紹介している。首相直轄の組織に食料安全保障を担う省庁が組み込まれていたり、その下には民間団体を配置していたりする。

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