人は一生に何度か「あって当然」だったものを失い、危機に陥る。多くの人が共有した危機は、2011年3月の電力不足だ。震災後、多くの発電所が稼働停止となり、被災地はもとより関東の広域でも電気を使えなくなった。「電気はなくなるもの」と初めて実感した人も多いだろう。
同様のリスクは「食料」にもある。日本の食料自給率は熱量ベースでは4割未満。「食べものがない」という危機に直面するリスクは常にある。日本人が食料不足の危機に楽観的なのは、敗戦以降、幸運にも深刻な食料危機に陥っていないからだろう。
12月6日、マッキンゼー・アンド・カンパニーが報告書「『グローバル食料争奪時代』を見据えた日本の食料安全保障戦略の構築に向けて」を公表した。2050年ごろまでを見据えての世界と日本の食料をめぐる状況把握と、日本が進むべき「針路」を示している。
報告書の作成に携わった同社の山田唯人氏に話を聞いた。「グローバル食料争奪時代」の意味とは。そして、日本の抱えるリスクと戦略とは。
契約寸前の食料・農地を中国がかっさらい・・・
報告書の題にある「グローバル食料争奪時代」の意味するところを、山田氏は次のように説明する。
「ある日本企業が南米で食料や農地を取得する事業に取り組み、相手先と合意段階まで至っていました。ところが、最後の最後である中国系プレイヤーが大幅に上回る額を提示し、その案件をかっさらったのです。こうした世界の食をめぐる“争奪戦”がグローバルに起きていることを多くの方に知っていただきたいと考えました」
今回の報告書について、山田氏は2つの特長を述べる。「1つは、輸入や海外に着目した点です。従来の報告書では、国内の生産性や農業改革についての話はありましたが、輸入や海外の視点はほぼありませんでした。もう1つは、リスクの悲観的シナリオを描いた点です。具体的に日本への影響がどれほどになるのかを明示しました」。
報告書には、同社が蓄積してきた研究のほか、専門家へのインタビュー、公開資料の精査、海外事例の収集・分析などの成果が含まれている。あぶり出された日本の食料安全保障をめぐるリスクとはどういうものか。