一方、留学生たちの中国国内の保護者のもとには、別の怪しい電話がかかってきた。いわく、あなたの息子さんや娘さんを預かった。巨額の身代金を用意しろ。警察には伝えるな――。なかには、失踪した学生の顔写真にヌード写真を合成した脅迫画像まで送ってきた例もあるというから手が込んでいる。
すなわち、領事館や公安局を騙って海外留学中の若者を騙し、一時的に実家との連絡を断絶させ、誘拐を装って実家に身代金を要求するという「エア誘拐」詐欺だったのである。
ターゲットになったのは、故郷で蝶よ花よと育てられて10代後半からカナダに留学できるような「ええとこ」のお坊っちゃんやお嬢ちゃんだ。中国社会の汚い部分とは無縁で育ち、悪やウソに対する免疫がない彼らが親元を離れてピヨピヨと歩いているともなれば、詐欺グループにとっては好餌でしかない。
また、現代の中国の若者は政府のプロパガンダと経済発展の影響で、体制への信頼感がすこぶる強い(在北米留学生には既得権益層の子弟も多く、いっそう同様の傾向が強いと思われる)。領事館や公安局を名乗れば、そんな彼らを騙すことはより容易である。
もっとも、巧妙に準備をしたはずの詐欺グループにも誤算があった。騙した相手の少年少女たちが想像以上に「甘ちゃん」だったのである。
詐欺グループは電話のなかで、今回の事件は国際刑事犯罪で、中国国家と共産党の政治的な問題でもあり、ヘタをすれば母国の両親に対しても深刻な政治的・法律的迫害が及ぶと何度も強く警告したはずだった。しかし、お豆腐のようなメンタルしか持たない当世の留学生たちは、みんな禁則事項を破って自分のスマホで両親と連絡。そこで両親側が詐欺に気づき、事件が発覚してしまったのだ。11月半ばまでにすべての「失踪」学生たちの所在とその無事が確認された。