「電波をふさぐ」ことがテレビ局のビジネスだった
オークションの本質的な機能は、市場原理で周波数を配分して競争原理を機能させることだが、それがまさにテレビ局の恐れることだ。テレビのような成熟産業で大事なのは、新規参入を妨害することだからである。
民放を見る人がいまだに多いのは、番組が優れているからではなく、普通のテレビで無料で見られるチャンネルがそれしかないからだ。民放の企業戦略は一貫して、この寡占状態を守ることだった。彼らは有線放送の免許を市町村に限定にさせてケーブルテレビの成長を遅らせ、衛星放送は子会社で全部ふさぎ、ネット放送は「著作権」を理由に妨害してきた。
テレビ局の政治力は圧倒的に強く、総務省の電波官僚も手がつけられない。その政治力の源泉になっているのが、系列の新聞社も含めた政治家との癒着である。たとえば朝日新聞の政治部には、テレビ朝日の系列局の電波利権を取るのが専門の「波取り記者」がいる。彼らは原稿を書かないで、いつも政治家にロビイングしている。
しかし時代はもう変わった。今オークションで電波を買って、放送に使おうという会社はない。携帯端末で放送もできるからだ。その通信キャリアもNTTドコモとKDDIとソフトバンクの3社の寡占状態になり、新規参入はほぼ不可能になった。オークションで電波を配分しても、テレビ局のビジネスが脅かされる心配はないのだ。
問題は今のように日本だけのガラパゴス周波数で電波を浪費していると、電波が絶対的に不足することだ。日本のインターネット通信量は、スマートフォンが普及し始めた2007年から10年で15倍になり、今後10年で10倍以上のペースで増えると予想されている。
この不足を、いま計画されている5G(第5世代)通信サービスで埋めるのは無理だろう。5Gの電波は周波数が高く数百メートルしか届かないため、膨大な基地局が必要になるからだ。携帯電話メーカーが日本独自の「ガラケー」で自滅したことは周知の事実だが、今後は通信サービスも周波数が不足して「壊死」するおそれが強い。