東京都の豊洲新市場をめぐる騒動は、石原慎太郎元知事を吊し上げる都議会の百条委員会が開かれるなど、政治ショーの様相を呈してきた。最初は地下水の汚染が騒がれたが、コンクリートの下の地下水は規制対象ではないことが分かると、今度は入札の談合疑惑とか「瑕疵担保責任」とか、移転問題と無関係な話に脱線している。
古代ローマでは市民が国に「パンと見世物」を要求し、コロシアムで奴隷とライオンの試合などの見世物が開催された。いま豊洲で展開している騒ぎも、小池百合子知事の提供するポピュリズムの見世物である。
いま豊洲問題で住民投票したら
窮地に陥った小池知事が、住民投票に打って出るという話もあるが、いま住民投票をやったらどうなるだろうか?
朝日新聞の世論調査(2月18、19日実施)によれば「豊洲への移転を今後も目指すべきだと思いますか。やめるべきだと思いますか」という質問に対して、「移転を目指すべきだ」が29%で、「やめるべきだ」が43%だから、豊洲移転は中止になるだろう。
面白いのは、ワイドショーを見て「あんな水で洗った刺身なんか食べられない」という主婦が多いことだ。もちろんこれは誤りだが、「地下水が汚れている」という話をワイドショーが騒ぐと、いったん刷り込まれた印象は消えない。「福島のコメは放射能で汚染されている」という印象が消えないのと同じだ。
こういう人々が小池知事の支持者だから、彼女がそれに迎合するのは政治的には正解である。すべての国民がいつも政治について考えることはできない。国民の生活には政治より大事なことがたくさんあるので、自分に判断できないことは専門家にまかせ、情報コストを節約するのが議会制度だ。
デモクラシーは衆愚政治になりやすいので、議会は多くの大衆が直接に意思決定しないように設計されている。「豊洲の地下水で刺身を洗うことはない」という事実を知っている都民は少ないようだが、8月の都議会議員選挙はそういう平均的な都民のためにあるので、住民投票なんかする必要はない。