朝鮮半島情勢と外務省が出す「危険情報」

 現時点で、外務省は、北朝鮮との関係において、朝鮮半島情勢は引き続き予断を許さない状況にあるとの認識を示しているが、韓国に関しては「スポット情報」にとどめ「危険情報」は発信していない。

 「スポット情報」は、短期的に危険が高まった地域への注意を促し、安全対策に心がけるよう呼びかけるものであり、渡航者には在留届または「たびレジ」(外務省海外旅行登録)による連絡先の登録を要請している。

 「危険情報」は、危険事案が継続している場合に発信され、危険の度合や緊急性に応じて「十分に注意」、「渡航の是非を検討」、「渡航の延期」および「退避勧告」の4段階に区分されている。

 2010年11月、当時は民主党の菅直人政権下であったが、北朝鮮は海洋上の南北軍事境界線(NLL)に近接した海域に位置する韓国の延坪(ヨンピョン)島に向けて砲撃を行った。

 いわゆる「延坪島砲撃事件」により、韓国軍人2人が死亡、15人が重軽傷を負っただけでなく民間人2人が死亡し、3人が負傷した。

 あわや、朝鮮半島有事が現実味を帯びる恐れのある事件であったが、外務省は危険情報を発信せず、砲撃事件が起きた直後に危険情報よりも格下のスポット情報を出して、北方限界線(NLL)に近づかないよう注意喚起するにとどめた。

 外務省は、アフリカや南米は日本人が少ない地域で、他に与える影響も限定的と判断して、これまで頻繁に危険情報を出してきた。

 しかし、隣国の韓国とは人的往来が多く、経済的結びつきも強いため、渡航延期や退避を発信すれば日韓双方に大きな影響を及ぼすことから、その発信に慎重にならざるを得なかったようだ。

 このように、朝鮮半島危機における危険情報の発信は、大変難しい側面があり、また、北朝鮮のミサイルが約10分で日本へ到達する現在の軍事事情から見れば、危険情報が段階的に引き上げられるというより、急激に情勢が悪化し、一気に「退避勧告」が発信され、「法人等の保護措置」が発令される、とみておいた方がより現実的であろう。

 韓国および米国などと緊密に連携し、政府を挙げて情報収集に努め、不測の事態に備え万全の体制を整えるというのがわが国政府の基本方針である。

 しかし、外務大臣からの依頼を受け、外務大臣と協議し、内閣総理大臣の承認を得て、防衛大臣の命令によって実施される「在外邦人等の保護措置」の手続きには、極めて時間的猶予がないことを前提とした態勢の整備と、平素の準備や訓練そして実際的な予行が重要である。