そのため、在韓邦人等の保護・輸送に当たっての統括組織、各組織の任務・役割分担、一時集合・避難場所の指定、輸送経路と端末地(空港、港湾)、相互の通信連絡手段などについて具体的に計画し協定しておく必要がある。
また、それに基づき、咄嗟の運用ができるよう現実に即した準備と予行が喫緊の課題として浮上している。
平和安全法制において新設された在外邦人等の保護については、防衛省・統合幕僚監部が陸海空の関係部隊を集めて実施した「平成28年度在外邦人等保護措置訓練」などを通じて、在外邦人等の生命または身体を防護するため武器を使用した「警護」や「救出」の要領を訓練している。
その中には、在外邦人等の一時集合場所が暴徒に取り囲まれてしまった場合や唯一の輸送経路がバリケードで通行妨害にあってしまった場合など、様々なケースを想定し、その対処について演練していると報じられている。
その場合の武器使用は、自衛官が、保護措置を行う職務の実施に際し、自己や当該保護措置の対象である邦人等の生命若しくは身体の防護またはその職務を妨害する行為の排除のためやむを得ない必要があると認める相当の理由がある場合に、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器の使用が可能とされている。
従来「自己保存型」に限られたものが、いわゆる「任務遂行型」として国際標準の武器使用基準に一歩近づいた形である。
しかし、人への危害が許容されるのは、正当防衛および緊急避難に該当する場合のみとされ、法制上は警察権行使の一環としての権限の範囲に止められており、依然として課題を残している。
また、保護措置の実施には以下の要件が定められ、それらのすべてを満たす場合に可能とされており、特に(1)と(2)項の要件は運用面のハードルを高くしている。
(1)保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており、かつ、戦闘行為が行われることがないと認められること。
(2)自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む)を行うことについて、当該外国等の同意があること。
(3)予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力の確保が見込まれること。
朝鮮半島危機における自衛隊の在韓邦人等の保護については、反日感情が強く、自国内に自衛隊を入れることに否定的な意見が多い韓国との調整が外交的課題である。
また、自衛隊の「日報問題」でも明らかなように、状況の急激な悪化が常態化している国際社会にあって、戦闘が行われていないとのリジッドな要件は非現実的との誹りを免れ得ないが、自衛隊は、それらの問題がクリアーされれば、前述の訓練の成果を反映して任務遂行にまい進することは間違いない。