空爆され瓦礫の山となったモスル市内

「イスラム国」の終わった日

 6月29日にイラク軍が「ヌーリ・モスク」を奪還した。これを受けてイラクのアバディ首相が「ISという偽りの国家は終わった」との声明を出したというので、大げさな演説をしたのかと思いきや、どうもツイッターつぶやいただけだった。

 ヌーリ・モスクは、3年前に、ISの指導者バグダディが「イスラム国」建国の大演説をした場所だが、ISが敗走する際に爆破してしまったらしい。イラク軍が奪還した時はがれきの山になっていた。

 しかし、7月9日には、アバディ首相本人がISに支配されていたイラク第2の都市モスルに乗り込み、勝利宣言。地元のテレビは、歓喜に踊り続ける民衆を映し続けた。

 イラク北部、クルド人自治区の街アルビルには、ここを拠点にモスルを取材しようと、大手メディアをはじめ多くの日本人が滞在していた。イラク人医師のリカー先生も、日本からやって来た。

 リカー先生はモスル出身のクリスチャンで、小児がんの専門医としてイブン・アシール病院で働いていた。3年前に彼女が暮らしていたキリスト教徒が多数を占めるカラコーシュという村がISの襲撃を受けたため、日本に避難して暮らしている。

 以来、モスルには戻っていなかった。今回は、モスルの病院に戻るための手続に来たという。興奮気味に、ニュースを見ている。しかし、クリスチャンの彼女は、たとえ「イスラム国」がなくなっても1人でモスルに行くのは危険だ。

 「来週、うちの現地人スタッフが薬を(モスルにある)イブン・アシール病院に届けるんですが、行きますか?」と聞いてみた。

 イブン・アシール病院で働く女医のワサン先生はイスラム教徒で、アルビルに避難しているが、最近はほぼ毎日モスルへ1時間かけて通っている。彼女によれば、東モスルは、ISが去ってから半年が経ち、病院までの幹線道路の治安は守られているから大丈夫だという。

 そこで、今回は、鎌田實が代表を務めるJIM-NETというNGOが集めた70万円分の抗癌剤を彼女たちに届けてもらうことにした。

カラコーシュの自宅を訪れるリカー先生