(文:出井康博)
岡山県南東部に位置する瀬戸内市――。2004年に「平成の大合併」で3つの町が一緒になって誕生した、人口3万8000弱の自治体である。その名のとおり、市は瀬戸内海に面していて、温暖な気候のもと農業や漁業が主な産業となっている。
全国の多くの地方自治体と同様、瀬戸内市も「高齢化」と「人口減少」が悩みの種だ。市民の3人に1人は65歳以上で、人口は年200-300人ペースで減り続けている。そんななか、市では地域活性化のため、あるプロジェクトが進んでいる。来年春、外国人留学生を受け入れるためIT専門学校が開校する予定なのだ。
廃校を留学生向けの専門学校に
そのニュースを私が知ったのは昨年夏、「産経新聞」電子版でこんなタイトルの記事を見つけたときだった。
<廃校小学校舎を専門学校に再利用 瀬戸内市、留学生に田舎暮らしの場を>(「産経新聞」電子版2016年8月27日付け)
多くの読者が気にも留めないような記事である。しかし私は、この3年間ほど外国人留学生の受け入れ問題をテーマにしている。そして瀬戸内市は、私の生まれ育った故郷でもある。
離れて30年以上になるが、定期的に帰省しているので市の事情はある程度わかる。現在も市内には、私の母校の県立高校が1つあるだけで、他には高校や専門学校、大学もない。「IT」に力を入れているといった話も聞いたことがない。一方、特産品としては沿岸部で養殖される「カキ」がある。専門学校がつくられるのも、カキ養殖が盛んな集落である。つまり、カキの町にIT専門学校がつくられ、留学生が受け入れられるわけだ。
専門学校に利用される小学校は13年、児童数減少のため廃校となった。周辺には空き家も目立つ。そんな空き家も留学生の寮として使う計画なのだという。
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