KDDIは2013年夏、法人向けID管理サービス「KDDI Business ID」の開発プロジェクトで初めてアジャイル開発手法を導入し、社内で水平展開を図っている。そのリーダーを務めるのが藤井氏だ。また、平鍋氏は自らアジャイルによってソフトウエアを開発すると同時に、アジャイル開発手法の普及活動を行っている。

 JBpressの読者で野中氏の名を知らない人はいないだろう。形式知と暗黙知がスパイラルとなって新しい知を創造する「知識創造理論」や共著書『失敗の本質』などで知られる、日本を代表する経営学者である。

 野中氏とソフトウエアの開発手法に接点があるのは意外に思われるかもしれない。実は現在のアジャイル開発には、野中氏らが約30年前に手掛けた論文のアイデアが取り入れられている。

 アジャイル開発にはいくつかの具体的手法がある。その中で最も普及した手法が「スクラム」だ。1990年代半ばに米国で誕生し、欧米中心に世界的広がりを見せている。スクラムという名前は野中氏らの論文が基になって付けられた。

 野中氏は80年代に日本の製造業のベストプラクティスについて研究し、竹内弘高教授と共同で「The New New Product Development Game」という論文を執筆した。野中氏らは論文で、専門組織をまたいで集められたチームが一体となって製品を開発する手法を「スクラム」と名付けた。

野中 郁次郎氏
一橋大学 国際企業戦略研究科 国際経営戦略コース 名誉教授
早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて博士号(Ph.D)を取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校教授、一橋大学産業経済研究所教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て現職。カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)ゼロックス知識学名誉ファカルティースカラー、クレアモント大学大学院ドラッカー・スクール名誉スカラー、早稲田大学特命教授を併任。著書『失敗の本質』『知識創造の経営』等多数。